Run Like Hell【5/7】

文字数 822文字





 かぷりこ嬢は寝転がり、生きろ、と言った。

「意味があるなしじゃねぇ。生きろ。意味なき世界を生き延びる〈超人〉になれ!」


 しばらくの沈黙があって、がーがーすぴーと、いびきが聴こえてきた。
 かぷりこはまくしたてたあと、眠ってしまった。
 勝手な奴だ。

「きっと、疲れてたのね」
 盛夏は、そんな感想を漏らす。

「わたしは、道化には、なりきれない。自分を演じきれない。中途半端な道化だよ、それこそ死にたがりの、ね」

「わかっているじゃないの。演じるぶんには意味はあるし、虚構世界にもまた意味付けがなされてその世界が成り立っている。けど、生まれて、生きて生かされ、そしてひとは死ぬだけ」

「歩いてて進行方向に石があって、転ぶかもしれないから一々取り除いて歩いてたらそれだけで人生終わる。生かされているとしても、転ばぬ先の杖は必要なのか。そんなに賢く生きるのはエリートさんたちがやってりゃいい」

「どうしたの、壊色」

「わたしは今日生きるので精一杯で、その場その場で切り抜けるしかない。行き当たりばったりだわ」

「奇遇ね。あちしもよ」

「嘘つき」

「それはどうかしらね」

「さて。ぬるくなった熱燗をいただこうか」

「酒におぼれるのがあなたの処世術なんじゃないかって思うことがあるわ。でもね、壊色。処方薬を飲んでいるのだから、お酒は控えなさいね」

「雛見風花みたいな物言いね」

「風花とはつながっているもの、身も心も」

「へいへい」

 座敷に残った日本酒の処理係として、グイグイと片っ端から飲んでいく。
 心地いい。


「盛夏。風花や塾生たちはどうしたの」
「今頃眠っているわ。風花も泣き疲れたでしょうし」
「じゃ。わたしも下宿へ帰って眠るか」

「道中、気をつけて、酔っ払いさん」
「わーってるって」

 千鳥足になるのを精神力で制御して、わたしは鏑木水館から外に出る。

「永劫回帰、か……」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

鏑木盛夏(かぶらぎせいか):退魔士。私塾・鏑木水館塾長。

夢野壊色(ゆめのえじき):十王堂高等女学校〈用務員先生〉。下宿、西山荘に住む。旅人。

雛見風花(ひなみふうか):鏑木邸に住む、盛夏の小さな恋人。

長良川鵜飼(ながらがわうかい):私塾・長良川江館の息女。壊色に同行し旅をしていた。

苺屋かぷりこ(いちごやかぷりこ):カフェー〈苺屋キッチン〉の女給。

朽葉コノコ(くちはこのこ):元気いっぱいの女の子。

佐原メダカ(さはらめだか):ドジっ子。コノコを「姉さん」と呼ぶ。

空美野涙子(そらみのるいこ):空美野財閥の一人娘。ガラが悪い。

魚取漁子(うおとりりょうこ):タイピスト。

やくしまるななお:下宿・西山荘の管理人。

やくしまるななみ:下宿・西山荘の管理人、やくしまるななおの妹。

近江キアラ(おうみきあら):長良川江館の塾生。

金糸雀ラピス(かなりあらぴす):ラズリの妹。保健室登校。にゃーにゃーうるさい。

金糸雀ラズリ(かなりあらずり):ラピスの姉。風紀委員会委員長。涙子が好き。

園田乙女(そのだおとめ):黎明署の刑事。ヨーヨーを武器にする。

白梅春葉(しらうめはるは):殺人鬼。十羅刹女の能力を持つ。

鴉坂つばめ(からすざかつばめ):〈魔法少女結社・八咫烏〉のメンバー。

御陵初命(みささぎはつめ):十王堂高等女学校の生徒会長。

武久現(たけひさうつつ):絵葉書屋。電脳ゲームデザイナー。

獅子戸雨樋(ししどあまどい):編集者。

吉野ヶ里咲(よしのがりさき):政治結社〈黎明派〉の首領。

大杉幸(おおすぎさち):無政府主義者の首領。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み