Higher Ground【3/7】

文字数 1,047文字





「折鶴様。お乗り換えの準備が出来ました」
「ふむ。早いな。もう時間か」
「そこの女の身柄はどうしますか? 我々の原子力飛空艇に同乗させますか」
「ここに縛ったまま置いておくことにします。我々を追うよりも、鏑木どもはこの夢野壊色を助けることを優先させるでしょう」
「この飛空艇はどういたしますか」
「ゆっくり高度を落としていけ。着陸ではなく、そのままだと地面にぶつかるように、ね。それで退魔士どもをこの飛空艇に意識を引き付ける」
「かしこまりました」

 軍服を着た女性が立ち去ると、折鶴は檻の外からわたしを見た。

「クーデターをバカ呼ばわりとは、日和見主義に堕しましたね、壊色姉さん。それでは、生きていたらまたお会いいたしましょう」
 勝ち誇った声を出し、後ろを向けると、この場から去っていく折鶴千代。

 去るのを見てから、わたしはため息をついた。
「ここ、飛空艇の中なのね。どうりで原子力タービンの音が聴こえるわけだわ。さて。盛夏が来るとも思えないけど、どうしよう」

 鎖に繋がれたまま、十分くらいの体感時間が経過した。
 そろそろ奴らが言っていた「地面に叩きつけられる」頃合いだ。
 参ったな……。

 ……その場に座していると、この牢屋に、走りこんでやってきた奴がいた。

「先輩! 壊色先輩! 墜落しますよ、逃げましょう!」

 やってきたのは長良川鵜飼だった。

「鵜飼。どうやってここに?」
「大杉幸が場所を教えてくれて。幸がダイダラボウという巨人の〈魔性〉を幻魔術で呼び出したんです。そのダイダラボウの肩に乗ってこの飛空艇に降り立ちました!」
「大杉幸が、か。あ、そうね、『幼年学校』が出身だったわね、かぷりこや魚取漁子と一緒で」
「その二人も、合流しました。ボクたちも合流しましょう!」
「……わかったわ」

 どこからか持ってきたカギで檻と鎖を解錠する鵜飼。
 そうね。
 盛夏はきっと吉野ヶ里咲サイドにいることでしょう。
 わたしはわたしで、鵜飼とともに、大杉幸と会ってみようと思うわ。

 わたしを見て、鵜飼が首をかしげる。
「どうしたんです、先輩? こんな時にニヤニヤしちゃって」
「いえ。なんでもないわ。ダイダラボウっていう巨人の〈魔性〉に飛び移りましょう。ありがとね、鵜飼」
「ナイトはお姫様を助けるものです。ボクが先輩の一番のナイトであるようにって、いつも思ってますから」
「可愛いこと、言うわね」
「さ。急ぎましょう」
「ええ。そうするわ」


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登場人物紹介

鏑木盛夏(かぶらぎせいか):退魔士。私塾・鏑木水館塾長。

夢野壊色(ゆめのえじき):十王堂高等女学校〈用務員先生〉。下宿、西山荘に住む。旅人。

雛見風花(ひなみふうか):鏑木邸に住む、盛夏の小さな恋人。

長良川鵜飼(ながらがわうかい):私塾・長良川江館の息女。壊色に同行し旅をしていた。

苺屋かぷりこ(いちごやかぷりこ):カフェー〈苺屋キッチン〉の女給。

朽葉コノコ(くちはこのこ):元気いっぱいの女の子。

佐原メダカ(さはらめだか):ドジっ子。コノコを「姉さん」と呼ぶ。

空美野涙子(そらみのるいこ):空美野財閥の一人娘。ガラが悪い。

魚取漁子(うおとりりょうこ):タイピスト。

やくしまるななお:下宿・西山荘の管理人。

やくしまるななみ:下宿・西山荘の管理人、やくしまるななおの妹。

近江キアラ(おうみきあら):長良川江館の塾生。

金糸雀ラピス(かなりあらぴす):ラズリの妹。保健室登校。にゃーにゃーうるさい。

金糸雀ラズリ(かなりあらずり):ラピスの姉。風紀委員会委員長。涙子が好き。

園田乙女(そのだおとめ):黎明署の刑事。ヨーヨーを武器にする。

白梅春葉(しらうめはるは):殺人鬼。十羅刹女の能力を持つ。

鴉坂つばめ(からすざかつばめ):〈魔法少女結社・八咫烏〉のメンバー。

御陵初命(みささぎはつめ):十王堂高等女学校の生徒会長。

武久現(たけひさうつつ):絵葉書屋。電脳ゲームデザイナー。

獅子戸雨樋(ししどあまどい):編集者。

吉野ヶ里咲(よしのがりさき):政治結社〈黎明派〉の首領。

大杉幸(おおすぎさち):無政府主義者の首領。

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