Let Love Rule【1/5】

文字数 747文字

 もしも、清く正しく美しく踏み外すのが恋なのならば、それはコノコにとって、間違いなく「恋」だった。

 愛にはなれない、そばにいるのに窓越しのような、そんな「恋」。

 朽葉コノコの初恋の相手は女性で。

 アナーキストで。

 どうしようもなく魅力を備えて他人を離さない、そんなひとだった。

 名前は大杉幸。

 コノコは幸と出会い、踏み外してしまった。

 郷里を駆け落ちるが如くに離れ、大杉幸と暮らしだす。

 それはまだ、朽葉コノコが十王堂高等女学校に入学する前の話だ。

「わたしはバカなのだ」
 駆け落ちして〈和の庭〉の、帝都近郊の新興住宅地に住み始めて、コノコはある日、呟いた。
 自分にとっては、なんの得にもならない、ただ、苦しいだけの、「思想家」との生活。
 でも、愛想をつかすことがない。
 大杉幸は恋愛も巧みだった。
 大きな毒蛇に巻きつかれているかのように、身体も心も締め付けられる。

 離れられない!
 テンプテーション能力を持った、無政府主義者の首領にして、政府からの視点だと、土蜘蛛。
 それが、大杉幸という女性である。
 
 朽葉コノコは、幸の〈若い燕〉と呼ばれる存在になってしまった。
 コノコとしては、それで良かったのだ。
 平穏が訪れれば。
 結果、訪れることはなかったけれども。
 平穏なカップルを夢見ることを、その時のコノコは、願い続けた。

「幸お姉さま……」
 月明かりのもと、朽葉コノコは、ぼんやりとした大杉幸の残像を見る。
 昨日も、今日も、たぶん明日も……。


 今も、コノコは、大杉幸をどこか隠しながらも想い続けている。
 口には出すことじゃないから、しゃべらないけど。
 それに、幸のことを思い出すと、決まって泣きたくなるから。

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登場人物紹介

鏑木盛夏(かぶらぎせいか):退魔士。私塾・鏑木水館塾長。

夢野壊色(ゆめのえじき):十王堂高等女学校〈用務員先生〉。下宿、西山荘に住む。旅人。

雛見風花(ひなみふうか):鏑木邸に住む、盛夏の小さな恋人。

長良川鵜飼(ながらがわうかい):私塾・長良川江館の息女。壊色に同行し旅をしていた。

苺屋かぷりこ(いちごやかぷりこ):カフェー〈苺屋キッチン〉の女給。

朽葉コノコ(くちはこのこ):元気いっぱいの女の子。

佐原メダカ(さはらめだか):ドジっ子。コノコを「姉さん」と呼ぶ。

空美野涙子(そらみのるいこ):空美野財閥の一人娘。ガラが悪い。

魚取漁子(うおとりりょうこ):タイピスト。

やくしまるななお:下宿・西山荘の管理人。

やくしまるななみ:下宿・西山荘の管理人、やくしまるななおの妹。

近江キアラ(おうみきあら):長良川江館の塾生。

金糸雀ラピス(かなりあらぴす):ラズリの妹。保健室登校。にゃーにゃーうるさい。

金糸雀ラズリ(かなりあらずり):ラピスの姉。風紀委員会委員長。涙子が好き。

園田乙女(そのだおとめ):黎明署の刑事。ヨーヨーを武器にする。

白梅春葉(しらうめはるは):殺人鬼。十羅刹女の能力を持つ。

鴉坂つばめ(からすざかつばめ):〈魔法少女結社・八咫烏〉のメンバー。

御陵初命(みささぎはつめ):十王堂高等女学校の生徒会長。

武久現(たけひさうつつ):絵葉書屋。電脳ゲームデザイナー。

獅子戸雨樋(ししどあまどい):編集者。

吉野ヶ里咲(よしのがりさき):政治結社〈黎明派〉の首領。

大杉幸(おおすぎさち):無政府主義者の首領。

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