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文字数 1,335文字
絵葉書屋である湊屋は、若い女性が一人で切り盛りしているお店だった。
店主の名を、武久現(たけひさうつつ)、という。
青い着物に身を包んで、憂鬱そうな表情をしている。
「いらっしゃい、ラピスちゃん。それに、ラピスちゃんのお友達も」
「ゲーム基盤を買いに来たにょにゃー! みんな、女学生でいいとこのお嬢さんだから、お金持ってるにょにゃー!」
「ぞんざいな説明ですね、わたし、泣いちゃいますぅ」
メダカは瞳をうるうるさせた。
「まあ、泣くこたないのだ、メダカちゃん。ねぇ、店主さん」
「なんだい、お嬢さん」
「蒸気計算機に基盤を差し込んで遊ぶっていうけど、わたしには、意味がわからないのだ」
「なるほどねぇ。確かに、電脳世界に没入したこともないだろうし。蒸気計算機と電脳遊戯の関連性も、わからないよねー、普通は」
「そうなのだ! 教えるのだ、店主さん」
「武久現って呼びつけしてくれて構わないよ、お嬢さん」
「そっか。じゃあ、さっそく教えるのだ、現さん!」
……蒸気計算機は、蒸気機関で動く計算機だ。
……人間には複雑な計算でも、簡単に、早く、答えを出すことができる。
……ゼロと壱、つまり「ない」と「ある」の二択を、連続して読み取っていくのが、蒸気計算機の計算方法で、それをたくさんつなぎ合わせたのが、機械言語なのさ。
……その機械言語で、遊戯を作り出すことができる、蒸気計算機が高速で計算を行って、世界を構築するんだ、仮想世界を、ね。
……その仮想の空間を、電脳世界と呼ぶ。
……そして、電脳でつくった世界は、各々独立しているのではなく、〈電脳網〉でつながっている。
……その〈網〉の〈糸〉が、遊戯のプレイヤー同士をつなぐ。
……これをわたしらは〈千筋の糸(ちすじのいと)〉と呼んでいる。
……蜘蛛の習わしの言葉さ。
……網を紡ぐのは、蜘蛛。
……君たちは、その蜘蛛の糸の網の中で、つながりながら冒険するんだ。
「蜘蛛?」
コノコは、頭をひねって考えている。
どこかで聞いたことがあったような気がしたのだ。
「まあまあ、そう考えないでいいよ。君たちの女学校でも、一部でこの基盤でプレイする遊戯がすでに流行っていることは確かだからさ。流行に遅れないように、買っておいきよ」
武久現は、ニッコリと嗤った。
基盤は、カラフルな色合いの和紙に包んであり、コノコたちはそれぞれ、好きな柄の基盤を選び、買った。
ゲーム基盤を、和紙からそっと取り出してみると、確かに、葉書のような形状をしていた。
「毎度有難う」
店主の武久は、店先で帰るコノコたちに手を振っていた。
「にゃ! 怖いところじゃにゃかったにゃろ?」
「うーん、なにか引っかかるのだ」
「空っぽの頭のコノコが考えたところで、なにも浮かんじゃこねーだろ」
「むー、涙子ちゃん、酷いのだー」
寄宿舎に戻った一行は、図書室へと向かう。
そこには、冷却ファンが回る中、設置された、巨大な計算機が、奥の方に鎮座されてある。
それが、蒸気計算機なのだ。
無数のスロットル。そこに、コノコたちは買ってきたゲーム基盤を、ためらいなく差し込んだ……。