Run Like Hell【7/7】
文字数 1,337文字
「思い切り〈意味のため〉に戦っているじゃない、盛夏。ところで、どうしてここでわたしが襲われることがわかったの」
「あちしのところに、鴉坂つばめが来たのよ。十羅刹女が帝都に戻ってきた、きっと夢野壊色が狙われる、ってね。それで、追ってきたのよ」
「なるほど。索敵能力……か」
「あちしは〈外敵を撃ち滅ぼす〉という役目がある。つばめは〈魔法少女結社・八咫烏〉の一員として、あちしたちに協力してる。不思議もなにもない。あるのは、複雑な敵対関係よ」
「複雑な敵対関係?」
「多分に政治的な闘争を意味してしまうのよ、土蜘蛛との戦いは、今後、もっとね」
「十羅刹女ってなに? 蜘蛛切で刺したら、消えちゃったけど」
「〈鬼女〉よ、あの娘。春葉、と名乗っていたあの娘。十人の羅刹の力を、あの春葉って娘は一人で所有している。土蜘蛛の統領〈星を墜とす者〉の秘蔵っ子らしいわね」
各地を旅した時も様々な場所で聞いた人物の一人、それが〈星を墜とす者〉と呼ばれる人物。
まさか、本当に実在するとは。
「ありがとね、つばめ」
「盛夏さんに言われると、恥ずかしいなぁ」
わたしたちが佇んでいると、かっぽう着姿のお姉さんが、腰をくねくねさせながら歩いてきた。
「あらあら、こんな夜中につばめちゃんが部屋を出ていったから、うちのななみが心配していたのよ、つばめさん」
わたしは頭を下げる。
「管理人さん。こんばんわ」
「あらあら、ななおちゃん、って呼んでって言ってるでしょう、壊色さん。うふふふ」
話がややこしくなりそうだ。
たぶん、このかっぽう着のお姉さん、やくしまるななおさんは、今の戦いを陰で見ていたはずだ。
まいったな。
「下宿に戻ろうとしてたところです。わたしも、つばめちゃんも。ねー、つばめちゃん」
「わたしは盛夏さんのところに泊まりたいです!」
「そうなのね、つばめさん。じゃあ、いいわ。ななおちゃんは、今日は壊色さんと、しちゃいます!」
「いや、しちゃいますじゃないですって、管理に……いや、ななおさん」
「うふ。じゃ、帰りましょうか、つばめちゃん、壊色さん。面倒を見てもらってありがとうございます、鏑木盛夏さん」
「いえ。あちしはなにも。それじゃ、やくしまるななみによろしくとお伝えください、ななおさん」
「下宿・西山荘は盛夏さんを応援していますよ。水兎学派、頑張ってくださいな」
唇の端を曲げて、
「ええ。水兎学は、この国に必要ですから」
と、盛夏は答えた。
…………わたし以上に深みにはまって、自分の精神・魂と水兎学がイコールで結びついてしまった奴もいるくらいだもの。
…………そのバカは、鏑木盛夏っていうんだけどね。
雛見風花に言って泣かせる結果となったその言葉を、わたしは自分で、頭の中で反芻する。
わたしたちはきっと、みんなバカだ。
それこそ、永劫回帰にその身を委ねたほうがいいのではないか、とさえ思う。
だが、使命は、重くのしかかる。
信じるもののために戦う。
時として、それは危険なものだ。
それでも、信じるもののために殉じたいと思ってしまうのだろう。
特に、こいつ、鏑木盛夏のような人物は。
〈了〉