第27話
文字数 1,212文字
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「ぼくがリストを作って、足りない物があれば適当に買って来ますよ」
「任せる」と座長はとびきりのザ・スママを浮かべた。
ざっと見渡してから、ばらばらに置いてある荷物を、人形関係と機材、生活道具に置き直す。
人形は四体。『お姫』『弥助』『お婆』『妖怪』、行李(こうり)が二梱(こり)、ひとつの行李の中に面が「座長」のデスマスクと『狐』『犬』『夜叉』の四面、黒い幕が大中小で三張、人形の着替え、もうひとつの方を少し開けると、座長とユーコの衣類が見えたのですぐに閉めた。
大きなダンボール函に燭台が二本とロウソクの束。和傘が二張、紅色と黒。
提灯四張と大工道具などが突っ込んであった。
単体で小型発電機、照明用ライト、音響用カセットデッキ、キャンプ用のシングルコンロ。
まな板や鍋、やかん、包丁などは調布の家で使っていた物をそのまま持って来ている。
ミッキーマウス人形の置時計まである。
水切りカゴに入っていたお揃いの茶碗や箸は素早く片付けた。
ユーコの持ち物らしい赤いキャリーケース。
ずた袋の中には焼酎の一升瓶と紙パックのお酒、タバコ『しんせい』の買い置きまで入っていた。
ガムテープやハサミ、マジックペンの入ったダンボール函があった。
中を開けて詳しく調べると、色の種類が足りなかった。
ひと通りノートに記入してから写真を撮っておいた。
木戸銭は五百円でいいと座長が言ったので、チラシ二十枚に時間と場所の空白欄を埋めた。
座長にギターを置いていきますからと頼んで買い物に出かけた。
電柱や人目につきそうな塀や壁に、チラシをガムテープで貼りながら雑貨を売っている店を探した。
「逃げ出すのなら今だ」とささやく声がある。
店で模造紙や太いマジックペンの色を選んでいる時も聴こえる。
買い物を済ませて、神社へ向かっている時もセミが「逃げー」「逃げー」とうるさいほど鳴いていた。
神社に戻ると二人の姿はなかった。
荷物はぼくが分けた状態のままで置かれていた。
ギターケースもリヤカーに立て掛けたままだった。
機材がなくなると公演が出来なくなるのに、盗まれるなんてことは考えていないのだろう。
座長は自分の居る場所に、鍵を締めようとは考えない。
どこでもいつもと同じように変わらない。
ぼくは折りたたんだダンボールに張った模造紙に、カラーマジックで公演ポスターと立て看板を描き終わって、リヤカーの横に貼る劇団紹介ポスターを描いていた。
黒のマジックで『歩いて信州各地で公演している』と書いてから、『人形工房どんど』と書く文字の前に『東京』を付け加えるかどうかを悩んだ。『東京』と書くと、どうも地方を見下しているような感じに受け止められるんじゃないかな。
でも書かないと、どこから来たか判らない。怪しい変な連中だと思われるだろうな。
「いいじゃないか」
座長に声を掛けられて始めて戻って来たのが判った。
褒められると嬉しくなる。例のザ・スママだ。
「ぼくがリストを作って、足りない物があれば適当に買って来ますよ」
「任せる」と座長はとびきりのザ・スママを浮かべた。
ざっと見渡してから、ばらばらに置いてある荷物を、人形関係と機材、生活道具に置き直す。
人形は四体。『お姫』『弥助』『お婆』『妖怪』、行李(こうり)が二梱(こり)、ひとつの行李の中に面が「座長」のデスマスクと『狐』『犬』『夜叉』の四面、黒い幕が大中小で三張、人形の着替え、もうひとつの方を少し開けると、座長とユーコの衣類が見えたのですぐに閉めた。
大きなダンボール函に燭台が二本とロウソクの束。和傘が二張、紅色と黒。
提灯四張と大工道具などが突っ込んであった。
単体で小型発電機、照明用ライト、音響用カセットデッキ、キャンプ用のシングルコンロ。
まな板や鍋、やかん、包丁などは調布の家で使っていた物をそのまま持って来ている。
ミッキーマウス人形の置時計まである。
水切りカゴに入っていたお揃いの茶碗や箸は素早く片付けた。
ユーコの持ち物らしい赤いキャリーケース。
ずた袋の中には焼酎の一升瓶と紙パックのお酒、タバコ『しんせい』の買い置きまで入っていた。
ガムテープやハサミ、マジックペンの入ったダンボール函があった。
中を開けて詳しく調べると、色の種類が足りなかった。
ひと通りノートに記入してから写真を撮っておいた。
木戸銭は五百円でいいと座長が言ったので、チラシ二十枚に時間と場所の空白欄を埋めた。
座長にギターを置いていきますからと頼んで買い物に出かけた。
電柱や人目につきそうな塀や壁に、チラシをガムテープで貼りながら雑貨を売っている店を探した。
「逃げ出すのなら今だ」とささやく声がある。
店で模造紙や太いマジックペンの色を選んでいる時も聴こえる。
買い物を済ませて、神社へ向かっている時もセミが「逃げー」「逃げー」とうるさいほど鳴いていた。
神社に戻ると二人の姿はなかった。
荷物はぼくが分けた状態のままで置かれていた。
ギターケースもリヤカーに立て掛けたままだった。
機材がなくなると公演が出来なくなるのに、盗まれるなんてことは考えていないのだろう。
座長は自分の居る場所に、鍵を締めようとは考えない。
どこでもいつもと同じように変わらない。
ぼくは折りたたんだダンボールに張った模造紙に、カラーマジックで公演ポスターと立て看板を描き終わって、リヤカーの横に貼る劇団紹介ポスターを描いていた。
黒のマジックで『歩いて信州各地で公演している』と書いてから、『人形工房どんど』と書く文字の前に『東京』を付け加えるかどうかを悩んだ。『東京』と書くと、どうも地方を見下しているような感じに受け止められるんじゃないかな。
でも書かないと、どこから来たか判らない。怪しい変な連中だと思われるだろうな。
「いいじゃないか」
座長に声を掛けられて始めて戻って来たのが判った。
褒められると嬉しくなる。例のザ・スママだ。