◆ 忘備録(二) 一九八〇年・夏 

文字数 1,018文字


 七月三十一日(木)
 
 岡本さんとユーコは、最初の上演場所である上諏訪の手長神社まで、リヤカーごと軽トラックに積んで今朝出発した。
 運転は○○くん。積み残されたぼくは、明日鉄道で現地入りする。

 三年前にぼくが岡本さんに貸した本(「劇団 夜行館」の座長・笹原茂朱が書いた「巡礼記 四国から津軽へ」日本放送出版協会・昭和五十一年発行)で、荷車に舞台道具を全て積み込み、歩いて上演を続けていたことに影響を受けて、巡業をやりたいと言い出したのだ。





 計画当初は、岡本さん・奥さんの貴衣さん・桑島さん・伊田さんと奥さんのマミちゃん・早稲田大学の学生の中西・東京在住のカメラマン志望の中島、そしてぼく。
 他にも是非一緒に行きたいという青年も数名いて大所帯だった。
 それが、貴衣さんの妊娠・出産、若い座員が大学を卒業して就職したりと、一人減り二人減り、また岡本さんが一年ほど前に入ったユーコと一緒に暮らし始めたこともみんなが離れて行った理由のひとつだろう。
 巡業自体が空中分解してしまったと思っていた。

 今年になって、岡本さんが「信州へ巡業に行くぞ」と言い始めたが、ぼくは去年の結婚を機に、漫画に専念する為にどんどろから離れたので、行かないつもりだった。

 ところが、人が集まらなくてユーコと二人だけでも行くという岡本さんに頼まれて、突き放すことも出来ずにぼくも行くことにした。
 仲人は親も同然というしな。   

 伊田さんと中西は、それぞれ故郷に帰ることを決めていたので、
 最終的には、岡本さんとユーコとぼくの三人になってしまった。

 貴衣さんは、今でもぼくが一緒に行かなければ巡業が取り止めになると思っているようだ。 
 岡本さんとユーコの関係を、ぼくがサポートしていると考えているのかもしれないな。

 写真撮影用のフィルムが、ASA400・二本、ASA100・三本しかないので、
 新宿へ買いに出る。
 ASA400 270円×十本=2700円
 ASA100 240円×五本=1200円  計3900円   
 二十本を用意した。

*ぼくと妻が結婚をするときに、妻の実家がある土地では、仲人を立てて披露宴をしないといけない風習があり、前から岡本夫妻を仲人にと決めていた。
 しかし、ぼくが結婚をする前に、岡本さんが別れてしまった。
 それでも、ぼくと妻は、岡本さんにしか仲人をしてもらいたくなかったので、無理を頼んで一人でやってもらったのだ。

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