第38話
文字数 1,049文字
*
座長は暗幕の裏で、肩を落として座り込んでいた。
ユーコもその横で所在なさげに立っている。
いくら座長でも一人いた客に逃げられて、「ゼロ」は応えたに違いない。
そばにいくと、目元の光はぷっつりと消えていた。
「今夜の出来は、かなり良かったですよ」
ぼくは精一杯、明るい声を出した。
「駄目だ。まったく駄目だった」
座長は、舞踏の動きが拙かったと落ち込んでいた。
すっかり満足している自分を恥ずかしいと思った。
「駄目ってことは無いですよ。座長が一番まずいと思ったとこって、どこですか?」
座長が立ち上がって、その箇所を再現する。確かに、いつもより早く人形の腕を捌いていた。
「あそこは、気持ちが先回りしすぎた」
座長はまた座りこんだ。
しかし、ぼくはその次の動きにメリハリが出来て、かえって新鮮に感じた。
そのことを話すと、座長は「そうかな」と首をひねった。
そのまま、目玉が色んな方向をむいて動いている。
きっと、頭の中で再現しているのだ。
「次は意識してずらせてみるか」
座長はぼくの言葉で、少し元気になったようだ。
神社の宮司さんが気の毒がって、きゅうりの醤油もみ、ナスの漬物、トマト等を差し入れしてくれた。
後片付けをしていると、リーゼント崩れ男が戻って来た。
*
ぼくは、「いま頃、何をしに来たんだ」という思いを、顔のあらゆる筋肉を使って表現した。
男はぼくを避けて座長と直接話を始めた。
不思議なことに男は、座長の前ではオドオドしないで楽しそうに話している。
ぼくは、ふたりの様子を気にしながら荷物をリヤカーに運んだ。
片付けがあらかた終わったところで、座長がリーゼント崩れ男をぼくとユーコに紹介した。
名前は加山といって、知り合いの店に招待するから誘いに来たということだった。
座長はこの手の誘いは断ったことが無い。
ぼくは荷物が心配だと言って断った。
明日の朝食は、出発してから途中でパンと飲み物を買う予定なので、リヤカーの荷作りを終わらせてから、座長とユーコが加山と一緒に行くことに決まった。
いまいましいことに、加山がぼくを煙たいらしくて喜んでいる。
三人の後ろ姿を見送ってから、ぼくはギターを取り出した。
昨日弾いていなかっただけなのに、ずいぶんと久し振りの抱き心地だ。
三奈の顔を思い浮かべながら、左指の爪を見つめていた。
小走りで近付いて来る足音がしたので、思わずギターで顔を隠した。
「一緒に、来て欲しいの」
小さな声が聴こえた。
ギターを下げると、ユーコがぼくの目の前に立っていた。
座長は暗幕の裏で、肩を落として座り込んでいた。
ユーコもその横で所在なさげに立っている。
いくら座長でも一人いた客に逃げられて、「ゼロ」は応えたに違いない。
そばにいくと、目元の光はぷっつりと消えていた。
「今夜の出来は、かなり良かったですよ」
ぼくは精一杯、明るい声を出した。
「駄目だ。まったく駄目だった」
座長は、舞踏の動きが拙かったと落ち込んでいた。
すっかり満足している自分を恥ずかしいと思った。
「駄目ってことは無いですよ。座長が一番まずいと思ったとこって、どこですか?」
座長が立ち上がって、その箇所を再現する。確かに、いつもより早く人形の腕を捌いていた。
「あそこは、気持ちが先回りしすぎた」
座長はまた座りこんだ。
しかし、ぼくはその次の動きにメリハリが出来て、かえって新鮮に感じた。
そのことを話すと、座長は「そうかな」と首をひねった。
そのまま、目玉が色んな方向をむいて動いている。
きっと、頭の中で再現しているのだ。
「次は意識してずらせてみるか」
座長はぼくの言葉で、少し元気になったようだ。
神社の宮司さんが気の毒がって、きゅうりの醤油もみ、ナスの漬物、トマト等を差し入れしてくれた。
後片付けをしていると、リーゼント崩れ男が戻って来た。
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ぼくは、「いま頃、何をしに来たんだ」という思いを、顔のあらゆる筋肉を使って表現した。
男はぼくを避けて座長と直接話を始めた。
不思議なことに男は、座長の前ではオドオドしないで楽しそうに話している。
ぼくは、ふたりの様子を気にしながら荷物をリヤカーに運んだ。
片付けがあらかた終わったところで、座長がリーゼント崩れ男をぼくとユーコに紹介した。
名前は加山といって、知り合いの店に招待するから誘いに来たということだった。
座長はこの手の誘いは断ったことが無い。
ぼくは荷物が心配だと言って断った。
明日の朝食は、出発してから途中でパンと飲み物を買う予定なので、リヤカーの荷作りを終わらせてから、座長とユーコが加山と一緒に行くことに決まった。
いまいましいことに、加山がぼくを煙たいらしくて喜んでいる。
三人の後ろ姿を見送ってから、ぼくはギターを取り出した。
昨日弾いていなかっただけなのに、ずいぶんと久し振りの抱き心地だ。
三奈の顔を思い浮かべながら、左指の爪を見つめていた。
小走りで近付いて来る足音がしたので、思わずギターで顔を隠した。
「一緒に、来て欲しいの」
小さな声が聴こえた。
ギターを下げると、ユーコがぼくの目の前に立っていた。