佐久間と二人で清拭することに ~西條看護主任~

文字数 2,225文字

この佐久間はうちの大学病院の付属短大を卒業して三年目。「素材は悪うないけど、空回りしてる子」というとこでしょうか。まじめに頑張ってる割には、しょうもないことで目剥いて先輩看護婦に楯突いたり、家族さんを前に顔に感情がでたりと、ちょっと残念なところがあります。
別に言うてることは間違うてるわけやないんですが…。
見た目もそうです。高校で剣道部のキャップテンやってたそうで、背も高く背筋もシュッとしていますし、小顔で目鼻立ちも整ってます。似合うてない眼鏡を外して、ゲジゲジの眉をきちんとするだけで、おめめぱっちりの今風の別嬪さんになるやろうと思いますが、こっちも「もうちとお勉強、きばりよし…」いうとこでしょうか。そのアンバランスなポンコツ具合がなんとも面白い、かわいいとこでもあるんですが。

「主任。清拭、わたし一人で大丈夫です」
そう言うてくれたんですが、その日は少し人員に余裕があったんと、清拭時にこの特殊な昏睡に変化がでるんか、きちんと観察しときたいと思て、二人で一緒にすることにしました。
安堂さんには、週に二度、二四時間連続の脳波検査が必要とのことで、トイレ付の特別個室があてられてます。それでも念のためベッド回りのカーテンは閉めます。
「安堂さん、お顔、ふきますよ」
意識のない寝たきりのお爺さんでも、マナーとして一応、声掛けするようにしています。じっとお顔をみてたんですけど、反応はないです。ベッド柵を外してくれてる間に、熱いめのタオルで顔を拭きます。中心から外に向かって、目のふちや耳の後ろなど、不衛生になりやすい部分をやさしく丁寧にぬぐいます。
「お体、拭きますから、浴衣のお着換えもさせていただきます」
次に掛け布団を腰まで降ろし、片方ずつ肩から抜くようにして浴衣を脱がせると、肩下から大腿までが隠れるよう大判のバスタオルをかけます。
上半身から、末梢から心臓に向けてというのが基本です。汗かきやすい脇の下を丁寧に拭い、首の下から胸を回すようにタオルを当てていきます。タオルは八つ折りにして、垢が付いた面が二度当たらないようにします。身体を横向きにして、もう一人が背中を拭き上げていきます。この時に皮膚が赤うなってないか、仙骨部などに褥瘡ができてないかなどを確認します。安堂さんは軽度の小児まひ(脳性まひ)があって、左ひざ関節にいくつもの大きな術痕と、左第五趾(左足の小指)が欠損しています。
清拭だけで、大切なこと、気づくことは仰山あります。
看護業務の中では医学的な専門性が低い、誰にでもできる仕事やと思うてる人が看護婦の中にも大勢いますが、その手順や丁寧さを見ていると、知識・技術だけやのうて、看護婦としての適正まで、みな透けて見えるような気がします。

そうしている間に、白いブリーフがむくむく、むくむくと盛り上がってくるんがわかりました。ちらりと視線を向けた佐久間も気づいたようです。勃起は冷たい水にあたるとおトイレに行きとうなるんとおんなじ生理現象です。むっくりした陰部が引っ掛からんようゴムの部分を持ち上げるようにして、下着をゆっくりと下ろしていきます。
「わぁ」
ばね仕掛けのビックリ箱のように勢いよう飛び出してきました。
亀頭は佐久間の手首ほどの太さがあって、陰嚢から身体に沿うようにまっすぐ伸び、その先端がお臍の近くでアーチ状に反り返ってます。立派なもんをお持ちです。最近はしなびたお爺ちゃんのもんしか見てないから、余計にごっつうに見えるんかもしれません。手を離すと、そこだけ別の生き物のようにピクピク動きます。こうしてみると、若い男はんのは泌尿器いうより性器やということが、ようわかります。
(なかなか、お口の中に入れるんは、顎はずれそうで大変そうやなぁ)
(でも、男らしい、ええおチンチンやなぁ)
(このまま扱いたら、射精しはるやろかなぁ)
なんでや今日は、そんな不埒なことを思うてしまいます。
ここも不衛生になりやすい、清拭では大切なとこです。
特に丁寧に、きれいにせんとあきません。新しいタオルに交換して、亀頭を上部から細い指で摘まみ、左右に動かしながら丁寧に肛門や睾丸、鼠径部を拭いていきます。看護師二人して眠っている若い男性の反り立ったビンビンのおちんちんを無機質に右にしたり左にしたり、上に向けたり倒したりするんを、じっと凝視しているんは、えらい卑猥なようでどこやら滑稽な気もします。
「人間の脳って本当に不思議ですね。これは脳が動いてなくても、皮膚の刺激は脳に伝わっているということですよね」
「そういうことやろね」
冷静を装いつつ、佐久間の顔は少し赤らんでいます。この子もうちとおんなじようなこと、かんがえてんのかもしれません。
でも確かにそうです。
「昏睡中は、常に勃起状態にあるいうことやろか」
「それともうちらが触ってるから、勃起したんやろか」
「それとも溜まった尿の刺激によって勃起してるんやろか」
皮膚の刺激伝達と確定できるわけやありませんが、ここで指摘したり、批判したり議論したりするほどでもありません。
そうそう、私が知らんと思てるようですが、佐久間がこっそり付き合うてはる彼氏さんとは比べようのないほど立派な持ち物です。この子はあの人に上手いこと甘えられるんやろか、どんな顔してアンアン言うんやろか、オッパイ上手いこと揉んでもろうてるんやろか…。そんなことを思っていると、遠くから「主任さ~ん、西條さ~ん、どこ~」と、婦長の呼ぶ声がしました。
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