佐久間のことを笑うてられない ~西條看護主任~

文字数 2,106文字

病室から出てきたんは、それから10分くらいあとやったでしょうか。
「時間かかってたけど、安堂さんの清拭は、問題なかった?」
「えっ、あっ、別に、特に、何もなかったです… 大丈夫です」
「えらい赤い顔して、なんかあったん?」
「えっ? あっ、ちょっと汗をかいたみたいで…」
いやらしい汗なんか、冷や汗なんか知らんけど、ナースストッキング破れたまま仕事して、風邪ひいて熱ださんといてや。大きい安堂さんの先っぽを咥え込んでた薄い色の口紅もうっすら滲んでましたけど、武士の情けで指摘しませんでした。おトイレ行ったときに自分で気が付くでしょう。でも、あんなヒクヒクした状態でちゃんと最後まで着替えや後片づけができたんか、変なもんを部屋に残してきてないか心配になって、一応は確認しとかななぁとステーションでたとこで、目を覚まされた安堂さんと鉢合わせになりました。
「すいません、また、眠ってしまって…」
「そんなそんな、さっぱりされて男前があがりましたよ」
佐久間に、あんなことやらこんなことまで、いっぱいされたのに、なにひとつ記憶に残ってないご様子。そうは言うても下着も変わっていますし、ちょっと恥ずかしそうです。
「やっぱり、次からも看護婦がお手伝いさしてもらいましょか?」
「すいません、次は何とか自分でできるように…」
「いやいや、そんな気ぃ使わんとってください。それがうちらの仕事ですから。もうちょっと症状が落ち着かはるまでは…、ねぇ」
安堂さんとお話していると、気持ちが柔らこうなって、地の言葉がでます。こちらに気遣いされる方なので、昏睡に入る時や覚める時の状況など医療的な観察のためにも、看護師に清拭をお任せください…というお話をさせていただきました。
ちらと見ると、左拳の上のところが赤うなっています。
「あら、ここんとこ、どうかされましたか?」
いまさっきまで、佐久間の白いストッキングにきつう擦られていた手を取って、おそその奥の奥にまで入っていた二本の指と一緒になぶります。
「いや、何でしょうね。どっかに当たったんかもしれません。気づきませんでした」
「化膿せんように、軟膏塗っておきましょか」
そう言うて、おててつないだままステーションの中に入って、オロナイン軟膏をたっぷりと塗りつけました。
(ここがおまたグリグリしてたとこやな…)
(この指が佐久間のあの毛深いおそその中にはいったんやな…)
(太いがっちりした指やなぁ…)
(この指だけでも、うちの夫のよりも気持ちよさそうな…)
そう思うと、ついつい、連鎖的にあのごっついおちんちんが頭の中に浮かんできます。全体ががっちりしてるだけやのうて、鬼頭の先もグリグリと男らしいて、その先が反り返ってて、こんなんで上に乗ったり、上に乗られておまたの奥でゴリゴリ、ゴシゴシされたらどない、ええ気持ちになるもんやろとなんやうっとりします。
いろいろといやらしい妄想が浮かんできて、(佐久間のこというてられへんわ…)と苦笑いしながら、何やらこっちまで身体がぬくとうなってきました。

こんな日は、いろんなことが重なるもんです。担当の井上先生から、「安堂さんの昏睡中の様子をもう少し詳しく知りたい」という申し入れです。
無理もありません。脳神経にはまだ器質的疾患なんか心理的なもんなんか、精神病との境さえ、ようわからん病気や症状が仰山あります。関連する病気を調べてはるようですが、どれにも当てはまらんようで、入院してもらっているものの、お薬もでてませんし、定期的な検査だけで診断もつかず治療もしてないのです。
とりあえず、五日ほどの看護でいくつか気付いたことだけはお話しました。

・突然の昏睡は、午後の二時から五時ごろまでに発生すること多い。
・昏睡している時間は二時間から三時間程度。
・食事・排便・夜間睡眠など生活リズムは保たれている。
・廊下やトイレなどベッド以外での突然の昏睡(転倒の発見など)はない。
・昏睡によって、夜よく眠れないなどの訴えもない。

清拭のときに、おちんちんがむくむく大きいなったことは言いませんでした。原因もようわかりませんし、原因や治療に役に立つとも思えんからです。
看護部としては、現在、移動時の注意喚起と見守り、トイレなどの歩行時の声掛け、昏睡リズムと時間の把握を行っていますが、それに加えて、午後から半日ほど一人の看護婦が付き添って、昏睡に入るときの状況や、昏睡中の状態把握、昏睡から明けた直後にご本人からの聞き取りをするのはどうでしょうと、真面目な顔で提案しました。
「それはいいね」ということになりましたが、井上先生からは、観察にばらつきがでないように担当を付けてほしいと言われ、婦長も「そうですね…」と同意。佐久間が頭に浮かんだものの、またあないなことされると後始末が大変ですし、かというて、他の子でも大丈夫かと言えば、それも安心できません。記憶がないというても、あのやさしい、温和な安堂さんが、男ひでりのしょうもない看護婦にこねくり回されて、餌食になる言うんも面白うないです。
頭の中で色々と繰ってみたんですが誰も思い浮かばず、「ほな、私が担当しましょうか…」とぽんと言うてしまいました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み