オーガニズムの共有と呼ぶべき快感 ~安堂洸太郎~

文字数 2,125文字

「しゃあないなぁ。大きいベッドやし、そのままベッドにおいどから上がらしてもらい」
言葉は柔らかくても、佐久間さんには選択肢も拒否権もありません。荒い息のまま眉間に皺がよりましたが、頭を僕の足のほうに向けて転がるようにベッドに上がってきました。
「ほらほら、お行儀悪いけどお身体を跨がしてもうて。もうちょっと膝を上について…、そうそうそのまま腰を下ろして、おそその匂い嗅いでもらい…」
まくり上げられたナース服の中に、夕日が落ちていくときのような薄い陰影ができ、見開いた眼の前に、小さな白い臀部が顔の少しずつ顔の上に降りてきます。あまりの羞恥に脚がブルブル震えながら近づくにつれ、黒い陰毛の中のぷっくりとした膨らみが左右に割れて、その奥の濡れた赤い肉が見え隠れします。太鼓をたたくように心拍数が上がり、全身の血液が猛スピードで下腹部を駆け巡るのがわかります。
「ぬちょ」という音とともに、鼻と口に着地しました。
「うぐぅ」と小さな声が漏れます。
「よかったなぁ。ほら佐久間のおかげで、安堂さんのおちんちん、かちこちになった。やっぱり佐久間のおそそは、ええ匂いするんやなぁ」
西條さんのような重力のあるどっしりとした臀部ではなく、キュッと引き締まった筋肉質、弾力性のあるかわいい小尻です。眼と鼻と口をふさがれ、残った聴覚に西條さんの妖しい声が聞こえます。恥ずかしさと興奮で小刻みな震えが前後の振動へと変わり、鼻先よりも唇へ重心が移っていくのがわかります。ナース服の前ボタンがすべて外されると、わたしのごつごつした手を取られて浮いているブラジャーの中に差し込まれます。
柔らかい西條さんの手が重なり、左右四本の手で小さな胸を揉みしだきます。
「あっ」
「ほら、やっぱり昏睡中もセックスの本能だけは、脳から分離して動くんやわ」
その声に呼応するかのように、舌先をすぼめて中に入れていきます。
「あっ、あっ」
膣口から滂沱のように流れ出るどろっとした白い粘液が、丸めた舌を通り口の中に流れ込んでいきます。快楽のため臀部を押し付けて垂直に姿勢を保とうとする力と、力が抜けて前傾姿勢になる身体のバランスを、私の手が胸を揉み上げるようにして支えています。
足元でギシっと音がして、もう一人もベッドの上に上がってくるのがわかります。
「佐久間だけに、任しといたら申し訳ないし…」
臍の上で伸び上がるように反り返った陰茎を取って、サイドブレーキのように引き起こすと、ナース服を開き、野球のキャッチャーのように片膝を立てて大きく足を広げて腰を下ろしていきます。逆三角に整えられた薄い毛の中に突き刺さり、矢じりの部分がすっぽり入ると丸く広がった膣口がキュッと引き締まるのがよくわかります。「ズズ、ズズズ」と音がして、青筋立てた太い幹が、少しずつ深く膣の中へ収まっていきます。まん丸に広がった佐久間さんのまなこが飛び出して、その結合部分を凝視しています。
「あっ~んん」
ため息とも吐息とも喘ぎともつかぬような声を発し、小さな痙攣で亀頭の先がツンと子宮に着いたことを佐久間さんにも知らせます。バランスが崩れないように踏ん張って、左に残ったベッド柵を掴むと、広がった膝が車のジャッキのように屈伸をしながら、下から上、上から下へとピストンしていきます。佐久間さんの目を通して見える黒い陰毛と、太ももまで上がっている白いガーターストッキング、その中に捻じりこまれた肉槍ともいえる私のペニスとの対比があまりに淫靡です。
「ぐっ…」
心地よさというよりも、締め付けられるような、押し込まれるようなより強い快感に、くぐもった声が喉の奥からでてきて、顎先を上げ窒息することでなんとか制御します。もう憑依をする余裕はありません。
「ああっ…」
ニュートンのゆりかごのように、佐久間さんの小さな白い臀部の重みが増し前後左右に振られ、その前では半鐘を打ち鳴らすようにペニスの先が子宮を嬲り続けます。
「あっ、あっ」
「はぁ、はぁ」
どちらのものとも言えない二つの喘ぎが共鳴しています。
横軸から突き出たその二本の垂線は、お互いに手を伸ばせば届く距離です。西條さんが手を伸ばし、私の手の甲の上から重ねられていた佐久間さんの手を取ると、自分の胸に沿わせます。残った私の指をはぎとるようにして佐久間さんの胸をまさぐりはじめます。二人の身体が四本の触手でつながり、胸を押し付け揉みしだく力と、快感で前に倒れ込みそうな力の不安定なバランスが崩れ、すがるように二人の顔が近づいていきます。
「佐久間…」
「主任…」
垂線は三角形になり、お互いの舌唇を吸い付くチュッ、チュッという音が聞こえます。
最後の最後に、仲間外れにされたのは私のようです。いつの間にか首の横に広がった佐久間さんの細い足首を、両手でギュッと握りしめていました。
三人を乗せたベッドがぎしぎしと鳴り響き、二人の歯がガチガチと音をたて、私を媒体にした二人の腰振りが限界まで激しく達した時、ピラミッドの頂点に雷が落ちたように激しい電流が回り、どろっとしたものが顔の上に流れ落ちると同時に、私の身体から真上にほとばしるのがわかりました。
それは射精というよりも噴火であり、オーガズムの共有と呼ぶべき快感でした。

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