最後の仕上げまでもう一歩 ~安堂洸太郎~

文字数 2,310文字

私の入院期間は二週間に及び、退院許可がでたのは、卒業式のあとのことでした。それでも医師からは詳しい精密検査が必要だと強く、強く言われ、再入院することを前提とした一時帰宅です。学校のほうは、懲戒免職ではなく三月末での自主退職になるだろうと教務主任の太川先生から聞きました。でも、そんなことは、もうどうでもいいのです。
三月始めの日曜日の午後、家(父から譲り受けた京町屋)の中で、何度も深呼吸をしながら美奈先生を待っていました。約束しているわけではありませんが、昼か夕刻か夜か、今日中に先生は必ずやって来ます。
それは、謝罪のためではありません。「一部の男子生徒(赤江たち)と破廉恥なことをしていたのを安堂先生に見られ、それを隠蔽するためだったのではないか」という噂が全校をかけ回り、月曜日に理事長と校長の前で納得のいく説明を求められていたからです。
私には、美奈先生に対する怒りは全くありません。それは、最初の単純憑依で暴漢に仕立てられたと知った時からそうです。子供の頃から感情を強く抑えてきた私には、自分の身に降りかかったことであっても、「なるほど、そうだったのか」という他人事のような感想しかないのです。
数学の「正しい答え・間違った答え」のように、人間の行動には「正しい行動・間違った行動」というのはありません。結果論でもありません。イメージとしてはエントロピー(混沌性・不規則性)の増大の方が近いでしょうか。自己にとって利益・不利益は副次的なものでしかなく、それは自然世界においては当たり前のことなのです。

ただ、この事件で大きな変化がありました。
それは強烈な性欲の目覚めです。
当時の24歳の私にも一応の性欲はありました。一週間に一度程度、アダルトビデオを借りてオナニーもしていました。それは、昂ぶる欲望ではなく、溜まったものを排出するという、どちらかといえば「トイレに行きたくなったから」という排尿に近い感覚でした。
ただ、今回のことで美奈先生に憑依し、体育倉庫でレイプされる場面の記憶映像や、その後の野菜を使っての追体験の反応を繰り返させることで、巨大な休火山のマグマが再活性化したように、コントロールできない性欲が噴きあがってきたのです。
毎日、三度、四度と入院している病院のトイレに隠れてオナニーをしました。
赤江に憑依し、久我麻希さんだけでなく、彼がセックスの下僕のように扱っている他校の女子高生や肉感的な若妻とも、虐待ともいうべき倒錯した性的プレイを繰り返しました。憑依をするとその人の性欲・性癖をそのまま体感することができますし、一部精神憑依によって自分の思い通りに動かすこともできます。他人の身体に次々と乗り移ることで、様々な人と思い通りのセックスを、放出の快楽とともに一日中楽しむことができるのです。
もちろん、その日の朝まで、美奈先生を凌辱しつくした赤江に憑依していました。四つん這いで歩き回らせる、目の前で激しいオナニーをさせる、精液を顔にかける、えずくまでフェラチオをさせる、淫靡な言葉を言わせる、様々な淫具で苛め抜く…、すべて赤江がしたことですが、それを方向付けたのは私です。憐みを乞う潤んだ瞳。ギュッと胸を掴まれた痛みに歪む眉間、口紅が溶けて滲んだ細い唇。拘束され壊れた玩具のように跳ねまわる細柳の腰。ぱっくり開いたあとに、恥ずかしそうにしずしずと蕾にもどるアヌス。
赤江の身体で先生の口内に一回、肛門内に一回、性器の中に二回放出しました。目くるめく快感に、セックスというのは、これほどまでに淫靡で気持ちのよいものなのかと驚いたほどです。
でも、それで満足したわけではありません。最後は同僚であり、あこがれでもあった美奈先生と自分自身の身体で交わりたいと思っていました。そのために、ここまで集団憑依、個人憑依、精神憑依を使って導いてきたのです。
ただ、私が美奈先生に襲い掛かる、サディスティックに犯すという選択肢はありません。それは赤江に憑依したことで十分に満たされていましたし、上手くできる自信もありません。逆に美奈先生自らが、裸になって大きく足を開き、ひれ伏し、半狂乱になって私に襲い掛かり、抱いてほしい、犯してほしいと懇願するようにしたいのです。わたしの上に乗り、わたしのペニスをしゃぶり、手で掴んで無理矢理、先生の膣に入れてほしいのです。
それを想像して、数日前から欲望が抑えられなくなっていました。

爪が円くカットされたチョークを握る細く清楚な指。黒髪をかけるときだけ現れる耳朶のない小さな耳。興奮すると下からピンクに染まっていく白い細い首筋。授業中に「コラぁ、カンニングするなぁ~」と生徒を笑いながら怒るときの少し高い声。上り詰めるときの過呼吸のような息音、オーガニズムに達するときの唸るような低い声。背中から噴き出る甘い汗、女陰からでてくる白濁透明のチーズ臭と酸味の強い体液。
酔っぱらった時に押し付けられた形の良い丸い胸。柔らかくしっとりと汗ばむその弾力、刺激によってしだいに固くなる乳首、熟れた桃のような小さなお尻、ヒクヒクするアヌス、激しい突きに合わせてパクパクする唇、指や陰茎にねっとりとまとわりつく襞。
私はその全てを知っています。ようやく、それを自分の掌で好き放題に揉みしだき、私の舌で直接、味わうことができるのです。もうすぐ先生の中に自分の身体の一部が入り、陰茎が先生の体液にまみれ、美奈先生が身体の上で腰を振り、私の精液をその身体の中にぞんぶんに注入することができるのです。
私をどのように誘惑するのか、迫ってくるのか、逆切れか、懇願か、発狂か、クライマックスはすぐそこまで近づいています。
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