それは赤江だったのか、安堂先生だったのか ~伊藤美奈~

文字数 2,349文字

「あと二分。頑張れ、美奈先生」
「あっ」とバランスを崩して後ろに倒れそうになり、慌てて浴槽の縁を掴んだ瞬間、ふっと緊張が途切れる。刹那「バリバリ、バリバリ、ブリブリ」という聞いたことのない、止めようのない爆裂な破裂音が浴室内にこだました。それでも無意識のうちに、内容物が出ないように洗面器と肛門の位置を手で調整した自分があまりにも憐れ。何とも言えない臭いが浴室に充満し、恥ずかしさに身体が震える。
「しゃぁないなぁ、無理なんやったら、そない我慢せんとトイレ行ったらええのに。ミーナ先生って、人前でおしっこしたり、うんこしたりするんが好きなん? そういう趣味? 僕はオシッコはええけど、大きい方は無理や」
そう言って鼻を押さえながら笑うと、浴室を出て、私の便の入った洗面器をトイレに流し、窓を開けた。放心して力の入らない私に、筋肉質の細い身体を密着させ、冷えた肩を抱くようにして、たっぷりの泡で後ろの穴に指を入れて優しく洗ってくれる。
「うっ、あっ、あぁ~」
強張っていたすべて筋肉が解けてしまったよう。浴槽のへりに腰をかけ、自分の両手で左右に陰部を開かされて、ジョリジョリという陰毛を剃られる音を遠くに聞きながら、これまで付き合った男たちを思い出す。
遊んでいるように見られがちだけれど、経験は大学二年の時初めて付き合った彼氏(先輩)を含め二人だけ。どちらも私をお姫さまのようにやさしく扱ってくれた。ベッドの中で灯かりを付けることさえも許さなかった。でもいまは、鏡にぼんやりと映る首輪が私の本来の姿であるような気がしてくる。暴力的、屈辱的ではあるが、これまでの理性的なセックスではとらえられない快感・エクスタシーは、これまでの男性に感じた温もりとはまったく異質のもの。
「キレイになりましたね」
鎖にひかれ浴室から出ると、柔らかい二枚のバスタオルを使って丁寧に胸の先から股間まで、丁寧にやさしく拭いてくれる。脱衣室には上下一体型の下着が赤い容易されている。自分ではどうしてつけるのかもわからず、赤江に着せてもらう。胸が半分飛び出たスケスケに、ショーツは脱がなくてもいいように、つるつるになったお股の部分が縦に割れている。
「先生がオナニーがしてるとこ見てみたいな。見せ合いっこしましょか」
無言のまま首を小さくふるが、鎖でソファの対面に座らされ、足をアームに乗せて、自分の言葉で、自分で陰部を広げさせられる。
「美奈の、グチョグチョのいやらしい×××見てください」
「美奈の、つるつる×××、きれいでしょ」
「美奈は、ここのちっちゃなクリトリスも、とっても感じるの」
身体を回転させ、背中を向けてお尻を突き出し、広げる。
「最近は、お尻の穴もとても気持ちいいの。美奈は変態なの」
「授業中もいやらしいことばっかり考えていて、いつもぬるぬるだったの」
これは夢なんじゃないかと思う。悪夢じゃなくて、わたしの本性の中にある夢。
感情のない棒読みのようなセリフでも、赤江の言葉を復唱させられるだけで身体が反応してしまう。赤江はそれをわかっていて私に言わせている。わかっていても、なすすべはない。前に座る赤江の目を見ながら、暗示にかかったように言われるままに胸を揉みしだき、その先端を指で摘まみ、陰部を両手で広げて女性器の各部を説明し、指で広げて一本、二本と指を出し入れしながらかき回す。
「はぁ、はぁ、はぁ」
赤江が愛おしそうな顔で私を見返しながら、ゆさゆさと陰茎を上下に摩り続けている。
鋭利な褐色の矢じりの先端からは、きらきらした透明の液がにじみ出て、私の指にもねっとりとした感触がまとわりついてくる。奈落の底に落ちていく快楽と、指一本だけ崖っぷちに残るこれ以上落ちたらダメだという思いが交錯する。
「美奈先生、一緒にいこう」
その甘い言葉に、タガが外れたように、自我の支配・制御を離れた指のピッチが一気に上がっていく。赤江の膨張した陰茎から目が離せない。
「あっ、あっ、だめ、いくぅ~」
痙攣とともに、赤江のペニスから白濁した精液が勢い良く顔面に噴射された。

それからの記憶は断片的でしかない。四肢をベッドに括り付けられ、アヌスに太いシリコンの棒のようなものを差し込まれ、太い男根の形をした先が淫靡にうねる大人の玩具や小刻みに震えるマッサージ器具のようなものでオルガズムを与え続けられた。
「美奈の変態×××、美奈のグズグズ×××」
「美奈はおちんちん大好き、変態セックス大好き」
誰かが何度も叫び、うなり続けている。
「鈍いエビさん。シーっ」
「鈍いバカさん。エーっ、あぁ~、イぃ~」
授業中に、笑いながら復唱させた三角関数の公式も一緒に言わされる。
目隠しをされ、穴の開いたピンポン玉のようなものを口の中に入れられ、海老のように反り返り、轢かれた蛙のように潰れ、ねずみ花火のように跳ねまわる。鼻の孔を上向きに潰され、耳の穴を指で塞がれ、尻を手で打たれ、髪を振り乱しながら何度、呻きながら絶頂を迎えたのかもわからない。白いパイル地のシーツは、お漏らししたように、びしょぬれになり、陰部だけでなく、腹部や大腿部の筋肉が痙攣しつづけ、ふくらはぎはこむらがえりになった。
身体と教師としてのプライドを限界まで削り取られた手荒い責め苦が終わり、身体中の関節がバラバラになった私を見つめる赤江の表情は、優しく慈愛に満ちていた。
それはどこか安堂先生に似ていた。頭を撫でられながら甘いキスで温かい赤江本人が中に入ってきたとき、なぜか嬉しくてわんわん泣いた。喰いつくように手を回し、誰にも奪われないよう足を背中に回して、身体の奥にまでそのぬくもりが欲しくて必死に腰を振り続けた。
私は、誰かの名前を叫び続けていたような気がする。
それが赤江だったのか、安堂先生だったのか、わからない。

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