序三  精神憑依者の独白

文字数 666文字

美奈先生のレイプ事件に巻き込まれたのは2月20日。
鴨川沿いにある大学病院に救急搬送され、退院したのはひな祭りの翌日です。オリンピックの年でしたから、まるまる14日、二週間入院していたことになります。
単なる頭部裂傷なのですが、入院期間が長くなった理由は過眠です。
憑依をしている間、私の意識は美奈先生や赤江翔馬(被憑依者)の中で覚醒しているため、身体は息をしているだけの抜け殻になります。大きな音がしたり、頬を叩かれたり、身体をゆすられたりすれば察知(覚知)できるのですが、病院なんだから寝ていても安全だろう、邪魔をしてくれるなと完全無視を決め込んでいました。
でもそこは流石にプロ。「この眠り方は変だ」と看破され、「脳の機能に異常が起こったのではないか」「精密検査が必要だ」となってしまったのです。
その必要がないことは自分が一番よくわかっています。それを証明するには、憑依を止めればよいのですが、そうもいきません。その時は何が何でも退院して、自分の身体で美奈先生とセックスをするんだという妄執に取りつかれていたからです。
「新学期の引継ぎがあるので、一旦退院させてほしい」と嘘をつき、すぐに再入院し検査を受けること、車や自転車の運転はしないこと、入浴ではなくシャワーにすること、変わったことがあればすぐに連絡することなど、叱られるようにこと細かに指示を受けた上で、ようやく退院が認められました。
これは、その大望が不発に終わり、ショックから精神的に勃起不全となり、自暴自棄とまではいいませんが、精神的にやさぐれていた二度目の入院時の話です。
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