時間が飛んだという自覚はある ~西條看護主任~

文字数 1,995文字

安堂さんが、目を覚まさはったんは、それから30分くらいあとやったでしょうか。
熱い精液をたっぷりに、どくどく注入されてほこほことした膣の中を、特別室のシャワーでよう洗い流して、ナース服をきちんと着直して、それから温かいタオルでべとべとになったお顔と、柔らこうなった可愛らしいおチンチンを丁寧に拭きました。もちろん、その他の部分の清拭もきちんと行います。こうしてじっとみてると、ほんまに優しい、穏やかな表情です。
それからバスタオル外して新しいパンツと浴衣に着せて、ベッドを30度ほどに起こして、血圧と脈を測って、体温計を脇に挟んだところで、「パチっ」と目があきました。
4時5分。昏睡確認からちょうど二時間です。「よーい、どん」という感じの目の開き方ひとつを見ても、これは通常の睡眠ではないことがわかります。
「あっ、すいません」
目が開いた時にじっと覗き込んでいる人がいると、見てる方も、見られてる方も、どっちも気ずつないもんです。特に、こっちは罪悪感というか申し訳なさというか、ええ思いさしてもうておおきにというか、いくつもの感情がグルグルしています。おもわず言葉が重なってしまいましたが、やっぱり何も覚えてはらへんようです。

いくつか、お話をききました。
「少しずつ眠とうなるんやのうて、瞬間的に意識がなくなるという感じですか?」
「そうです。スイッチが切れるという感じでしょうか」
「ヒューズが飛んで、電気が真っ暗になるというイメージですか?」
「いや、暗いとか明るいという感じでもないです。いつも瞬きしてますけど、暗くなったとか明るくなったとかいうイメージでないのと同じです。一瞬でしかありません」
「じゃあ、夢見たりそう言うことも一度もない」
「はい。さっきまで主任さんと、なんで先生になったんかとか、看護婦さんになられたん理由は何かというお話してて、そのままの続きです」
「じゃあ、時計みるまで昏睡が起きたかどうかも、わからないということですか?」
「いや、それはわかってます。いま、時間飛んだな…という自覚はあります」
それ以外にも色々なことをお聞きすることができました。

【退院期間中、自宅でも同じような昏睡(時間の飛び越し)が起こっていた】
【覚醒前後も、ふらつきや気分が悪くなることはない(バイタルは安定)】
【歩行中や移動、買い物など何かをしている時、考え事をしている時は昏睡しない】
【二回目の入院以降は、昏睡が起きる頻度や時間にばらつきがなくなっている(午後2時~4時半頃、二時間程度。一日一度だけ)】

頭のええ人のお話しは、こっちが聞きたいことがわかってはるのか、脱線することなく理路整然としていてようわかります。こちらの推認や把握していた昏睡のリズムとも一致してて、お目覚めの直後にお話しを聞けたんは正解でした。これまでも聞き取りだけはしてたんですけど、直後ということもあり、こちらの質問にも、お答えにもリアリティというか真実性のようなものがあります。「時間が飛んだ」というのは適切な表現です。一回目でこれだけのことが分かったら、上出来やと思います。
いつもニコニコ、どちらかといえばぼんやりされているイメージですが、真面目な話をされるときは、きりっとした思慮深い顔になります。そのくせ、うちと同じように時折標準語が崩れて、ぽろぽろと京ことばになります。古い言葉ですけど、なんやキュンキュンします。お勉強教えてはるときはどっちやったんでしょうか。
「それでも、学校の先生を続けられるんは、大変やないですか?」
「一応、労災ということで、しばらく休職扱いになりましたし、授業中に突然、倒れるわけやありませんから何とかなると思います。あくまで希望的観測ですが…。あっ、でもやっぱり午後の五時間目とか六時間目とかは無理かもしれんなぁ。ずっと教壇で説明してるわけやないしなぁ…」
そうひとりごちるように言うと、いつもの、はにかみニコニコの安堂さんに戻りました。それを見てると、先ほどまでごつごつと嬲られて、ペロペロ、チューチューしてもろうた膣の感触を思い出して、ちょっとの間でええし、もう一回昏睡状態にならんやろかと、不謹慎なことを願うてしまいます。せっかく、冷たいお水で洗うたとこが、またじんじんしてきました。

「ちょっと、頭の後ろの傷を見せていただいていいですか?」
「はい、お願いします」
前から頭を抱くようにして後頭部を確認します。もう、抜糸も終わって傷口はふさがってます。頭全体を覆うネットもはずされて、ばい菌がはいらんよう大判のガーゼで覆っているだけの状態です。ほんまは、うちが傷口見る理由もないんですけど、わざと二つ目のボタン止めるの忘れてるんで、胸に顔が押し当たって安堂さんも緊張してドキドキしてはるんが伝わってきます。もちろん、わざとです。
「では、明後日の木曜日、もう一度、時間をとってお伺いしますね」

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