やさしい悪魔  ~安堂洸太郎~

文字数 2,123文字

精神と肉体はつながっています。
特に性的な刺激に関してはその傾向が強くなります。
他人に憑依してある時間、身体は抜け殻になりますから、手で摩られたり、口の中に入れられたりしても、誰かに触られているということがわかるだけで、性的興奮につながることはありません。
西條さんの説明で、視覚や聴覚、触覚などとは違い、嗅覚は唯一感情や本能に関わる大脳辺縁系に直結する感覚であることを知りました。もちろん、それとも全く関係ありませんし、佐久間さんの方が若いから…というものでもありません。

陰茎がビクッとしたのは、自分の身体に精神が戻ったからです。その瞬間に血の巡りが早くなって、海綿体が一気に勃起します。痛いくらいです。
ショーツの二つの女性器に直接あたる部分が、鼻の穴の上にくるようにしておかれています。生温かいというよりも、火傷しそうなほどジュール(熱量)の高いものを乗せられている感覚です。焙られるように女性特有の香りが立ち上り、鼻の中にブレンドされた二つの妖しい香りが身体の中に入っていきます。嗅覚が感情や本能にダイレクトに刺激を与える感覚だというのは、よくわかります。
薄く目を開けると、足を入れる穴の透き間から二人の姿がぼんやりと見えます。
先ほどまでは、ベッドの左右にひとりずつ向い合せでしたが、いまは二人とも左サイドに立って佐久間さんが私の陰茎を咥え、西條さんの右手が太ももの上の方をさすりながら、左手は柔らかく睾丸を揉んでいます。
このままでは一気に血液が流入し、あっという間に射精させられてしまうので、西條さんに入ったり、外部の看護婦さんが間違って入ってこないようにと気を配りながら、官能の昂ぶりを抑えています。
「ビクッとしてから、あんまり大きいならんなぁ…、かわろか」
「すいません」
西條さんが代わって口に含んでくれているあいだは、自分の中に戻ります。その口内愛撫はテクニカルでとても気持ちが良いので血の巡りが速くなります。自分の時に大きくならなかったことが、佐久間さんのプライドを傷つけ、西條主任に対する最後の対抗意識が燃え上がっていくのがわかります。
「主任、私やりましょうか、代わります…」
もう一度バトンタッチをすると、また西條さんへの憑依に戻ります。そうすると、すぐに縮むわけではありませんが硬度が弱まります。一生懸命さはわかりますが、主任さんと比較するとまだまだ未熟で、若さと対抗心で必死になればなるほど強く単調になります。二人して佐久間さんを煽って追い詰めて、おちょくって虐めているようなものです。
「フェロモンだすには、自分が気持ちようならんとあかんのやで…」
そう言うと、佐久間さんの後ろに立って、片手で器用に白い服の上からパチンとブラジャーのホックを開放すると、咥えるために上半身を屈めている胸元のボタンを一つ、二つと外し、ブラジャーの中にまで左手を差し込んで淫靡な動きを始めました。西條さんの中に入ると、その手のひらにやわやわとした弾力のある膨らみを感じます。少しずつ握る力が強くなっていきます。
「くぅ~」
咥えたまま仔犬のような甘えた声が高い鼻梁から漏れ出ます。戻って薄く開けた私の目にも真っ白なナース服の中に西條さんの拳が浮き上がり、ピンク色の乳首が摘まんで引っ張られたり、弾力のある若い乳房が強く揉みしだかれたりしているのがうつります。
「ほらほら、またちょっとずつ、大きゅうなってきたやろ…」
右手が後ろに回り、ナース服の上から臀部を撫で回すと、そのままワンピースをたくし上げるようにして中に入ります。ショーツもストッキングも脱がされていますから、裸のお尻です。臀部全体を手でぐっと摑むと、割れ目をさするようにしながら潤んだ中心部へと向かっていきます。最初は中指が肛門から陰毛の間を人差し指、中指、薬指の三本でサワサワしていたのですが、中指だけが曲がって膣の中にするりと入りました。
「うぐぐぅ…」
細い中指が膣口を超え、根元までずっぽりと中に沈んだ瞬間、反射的に口がすぼまり陰茎に歯が当たる痛みを感じます。踏ん張らないと立っていられなくなってきたのか、もっと深く指を入れてほしいのか、おまたがガニ股に開いて腰がぽっこりと落ちていきます。指は一本から薬指を加えた二本になり、第一関節から第二関節まで、ゆっくりしたスピードで深くなったり浅くなったりと抽挿を始め、ねっとり、びっしゃりした摩擦音が部屋の中に広がっていきます。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
鼻呼吸だけでは酸素が足りなくなったようで、唾液を蜘蛛の糸のように吐き出しながら咥えていた唇を外しますが、手で握った瞬間、西條主任の薬指にはまった結婚指輪が消えるほど奥まで突き出されて膝がかくんと折れ曲がります。「がっ」という低いうめき声とともに、そのまま潰れた蛙のようにベッドの上に崩れ落ちて、突っ伏すようにヒクヒクと痙攣してしまいました。
「あらまあ、大切な検査中やのに自分が先に気持ちようなって、いってしもてどうするん?」
その優しい声に、腕で踏ん張ろうとしますが力が入りません。
子供の頃にキャンディーズが歌った「やさしい悪魔」という歌がありますが、それは西條さんのような人をいうのかもしれません。
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