レイプ事件に巻き込まれる ~伊藤美奈~

文字数 2,048文字

去年まで、くだらない冗談言い合ったり、音楽の話したり、ちょっとした猥談につき合ったりと、仲良くしてたのに、今年に入ってから急に素っ気なくなった。「なにか嫌われることしたかな?」とどこかで気にはなっていた。
全国に門下生をもつ華道家元の息子。一流私学からのスポーツ推薦を「サッカーは趣味やさかい」の柔らかい京ことばで蹴り飛ばし、一般入試で同じ大学のより難度の高い理学部に合格し、またそれも「滑り止めやし」とするりと辞退した超嫌味な奴。その上、クールで飄々としてて、面白くてちょい悪で、スッとしたしょうゆ顔。ヒステリックで生徒に嫌われている行かず後家の化学の佐藤女史にまで、「先生。器具重いでしょ、持ちますよ」と自然に手を重ねることのできるプレイボーイ。
そんな赤江から「卒業前の最後のお願い」という呼び出しの手紙をもらった時、「何やろか」って思いながら、「卒業前の告白か?」「恥ずかしかったんか」と勝手に妄想し、ごどこか浮かれ気分だった。バタバタした受験も終わって卒業式までは一段落、校内だから大丈夫だろうという気持ちの緩みもあった。
でも、奴らがあんなことを計画してたなんて・・・。

「美奈先生、一年生の時からずっと憧れてました。高校生活最後の思い出に、一回だけでエエからギュッとしてください」なんて、はにかみながら可愛いことを言われて、「えっ? 何言うてるの、子供のくせに?」と驚いたふりをしつつも、「しゃあないな、特別やで」と背中に手を回し、大人の女の余裕を見せようと、背伸びをして頬と唇の間くらいに「チュッ」としたのが運の尽き。「バシャ」ってフラッシュの音と一緒に、ポラロイドカメラもった青野と緑川が、写真をパタパタ振りながら、跳び箱の後ろからでてきた。
「美奈先生、アカちゃんだけ、ひいきはあかんで。俺らもギュっとしたってぇな」
その瞬間、足払いで、二枚重ねになっていた体育マットの上に転がされた。
「やめなさい。あなたたち、何をしてるか、わかっているの」
その時はまだ、だまされた怒りと教師としての威厳が残っていて、スカートの裾を直しながら、三方向から睥睨するように見下ろす三人の男たちを叱り飛ばす元気はあった。
「先生こそええんですか? こんな写真が出回っても」
「パンチラ写真よりも、高う売れるかもな」
見せられたポラロイドには、目を閉じて直立不動の赤江の首に手を回し、私から唇を寄せているピンク映画のようなショット。「えっ」と怯んだすきに一斉に襲い掛かってきた。
手足を左右に引き延ばされ、白いカシミヤのVネックセーターがたくし上げられ、六本の手がブラの上から中から、右から左から一斉に掴みかかってくる。全体を揉みしだく手、乳首を摘まむ手、加減というものがなく肉が捏ねられ、摘ままれ捩じられ擦られて、引きちぎられるような痛み。四方八方からのびてくる六本の手を必死に払いのけながら、濃紺のスカートがずり上がってくるのを抑えるにも限界がある。
「やめなさい。痛い、やめて、何やってるかわかってんの!!」と叫んでみても、誰か助けてという思いと、他の人に知られたらまずいという自制が交錯し力がゆるむ。
そのすきに柔道部の巨漢、緑川に後ろから羽交い絞めにされると、優男の青野がスカートの中に手を入れ、黒のストッキングを腰から一気に脱がしにかかってくる。足をバタバタさせ、必死のキックで抵抗するけれど、黒のパンプスが遠くに飛んだだけ。あっという間に足首まで降ろされ、腿にまで冷気があがってくる。身体を捩じって逃げようとするが、膝の裏に緑川の手が回り、子供におしっこさせるような恰好に持ち上げられて、ふわりと臀部が浮き上がる。
「やっ、やめて、お願い」
赤江が前に来て、私の股間に柏手を打つような仕草を見せると、「お待たせしました。美奈先生、おそそ様~ 御開帳~で~す」とブルーのショーツの布をゆっくり横にずらしていく。ひんやりした空気が私の大切なとこにあたる。そのまま顔を近づけると舌を出してペロリと舐めた。
「う~ん、マンダム」
赤江の言葉に邪気の塊のような淫靡な嘲笑が広がる。
「こんなことしてどうなるかわかってるの。いまなら誰にも言わないから」
「これから起きることも、どうぞご内密に」
いつもの笑顔でそう言って、ゆっくりと制服ズボンを下ろすと、丁寧に外側に折りたたんでから新しいハードルに掛ける。カラフルなトランクスを下ろすと、割れた腹筋の下から現れたのは、これまで見たことのないような湯気だった筋肉質のペニスだった。
(こいつら、馴れてる)
二月の冷気と男たちから放射される熱量が合わさり、なぜか妙な気分になっていく。高校生のものとは思えない黒光りした色艶、血管の浮き出た太い胴回り、鋭利な矢じりのような三角形に広がった先端。天を突くほどにふてぶてしく直立不動した肉槍から、見開いたままの目が離れない。
(あれで、ガンガンに突かれるんや)
(ここでレイプされるんや)
逃げられない現実に、腰から背筋にゾゾっと冷たいものがあがってきた。
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