悪魔にかなうはずなどなかった ~伊藤美奈~

文字数 2,626文字

眼球を突き刺す黄色い朝日が、門の横に止まった赤い軽自動車に反射している。
私は、ここに何をしに来たんだろう。
バックミラーに映るはげた口紅、涙も怒りも、羞恥もプライドもすべて枯れ果てた目の回りのクマ。ノーブラの上から黒のニット。乳首がざらざらして、膣の中ではまだ、グツグツと種火がくすぶり続けている。腰のあたりがどんより気だるい。
「八条口の新幹線乗り場までお願いします。ギリギリなんで急いでね」
何事もなかったかのように助手席の背もたれを倒し、ウォークマンで音楽を聴いている。
「あっ、事故起こさないでね。先生と心中する気ないんで…」
こいつは人間じゃない、というか自分以外を人間だと思ってない。
こんな悪魔を相手にして勝てるはずがなかった。

「赤江くん、おバカな美奈先生をおもちゃにしてください」
最期は、土下座でそう懇願させられた。ムーディな音楽に合わせてストリップ。「似合うと思いますよ」と差し出された赤い革の首輪は自分で巻いた。
三つ指を突いて「赤江くんのおちんちん、おバカなミーナ先生にペロペロさせて下さい」と大きな声で三度復唱。犬のように顔を擦り付けて唇だけで赤江のスウェットを下ろし、ソファの前で四つん這いの姿勢で、吸い込むように口の中にいれる。
「ミーナ先生は、教壇では高飛車やのに、ほんまはきつうされるんが好きなんですね」
そうなのかもしれない。足の親指で下着の上からクリトリスを押し潰され、器用に指で挟んで下着をずらされる。そのまま足先で裂かれるほどに左右に力いっぱい広げられ、ざらざらした親指がズコズコと陰部を蹴るようにして中に入ってくる。乳首を捻り潰され、太くなった陰茎を咥えたままハアハアとグチュグチュという音が響く。屈辱的な痛みのある刺激に無意識に腰が動いてしまう。
「足し算より、男のもの咥える方が得意なんやないですか」
赤江の何気ない言葉が、教師としてのプライドまで削っていく。
数学の面白さ、楽しさを子供たちに伝えたい。そんな理想に燃えていたこともあった。でもアンラッキーだったのは、安堂じゃなく私のクラスの生徒。生徒と一緒に笑って、泣いて…なんて言っていたけれど、それもこれもすべて浅はかな自己顕示欲でしかなかった。
「うぐっ」
泣きそうになって口の動きが止まると、左足が首の後ろから絡まり喉奥にまで肉棒が押し込まれる。呼吸が止まり必死に腿をたたくが許してもらえるはずがない。陰茎が口の中で膨らむと精液が一気に噴出する。生臭く苦いものが喉の奥に直撃し、ゴクリと飲み下すと、首輪の鎖が引かれ、ようやく陰茎から引き離される。「先生がスケベやさかい足まで汚れてしもた」と、白い体液でまみれた足の指までも、お尻を無様に上げた土下座のような姿勢で舐めさせられた。
四つん這いで家の中を案内される。この離れはシェルター用に作られたらしく、地下室にはミニシアターやビリヤード、食糧庫からワインセラーまである。
「せっかく来られたんやし、祖父の自慢の庭、見てやってください」
そう言うと、鎖を掴んだまま勝手口に向かう。散歩を嫌がる犬のように、お尻を床につけて首を振って抵抗するけど、「庭よりお外の方がええですか?」と聞かれて力が抜ける。こいつなら本当にやりかねない。赤く擦れた膝が痛いだろうと靴を履かせてくれたが、メス犬からメス猿に変わっただけ。
玄関を開けると、東山から吹き降ろす冷たい風が全身を襲う。池のある広大な庭を一回りさせられるが、身体が寒さで強張り、お尻をポッコリと上げた前傾姿勢が続くため、手の筋肉がなくなり、頭から何度も落ちそうになる。
寒さから尿意が一気に刺し込んでくる。
「お願い、おトイレに行かせて」
「あら、それは大変。膀胱炎になったらあかんし、ここでしてもうてエエですよ」
こうなることがわかっていて連れ出され、それを待っていたことがわかる。どこまで人を貶めれば気が済むのか。でも寒さも尿意も限界。有無を言わさず、左足首を掴まれ高く持ち上げられると、敷かれた冷たい白い丸石の上に顔から落ちる。赤江がわたしの下着をずらすのと同時に、物音一つしない寒空の中、シャァ~という勢いのある音が響き、弧を描きながら石灯篭にしぶきが飛んでいく。
「先生みてたら、僕もおしっこしたくなりました。連れションですね」
そう言って、ビンビンに膨張した男根を取り出すと、倒れ込んだ私の顔に向かって勢いよく放尿を始めた。鎖をひかれ、顔の正面からかけられても、もう声もでなかった。
もうもうとした尿臭の湯気をまとう中、崩れ落ちた私を軽々と抱きあげると、そのまま浴室に入り、首輪、下着のまま湯船に落とすようにドボンと投げ落とされた。
二人の大人でも足を延ばしてゆっくり入れる大きな浴槽。檜の香りが立ちこめ、たっぷりと温かいお湯が張られている。
「そとはちょっと寒かったですね」
湯船の中でキスをしながら、赤江の中指がお尻の穴のまわりをまさぐり続ける。こわばっていた体中の血液が耳朶や足指、手指、乳首、陰部などの抹消に一気に回り始め、じんじんとした妖しい感覚に覆われていく。
「ええ機会やから、先生のお腹の中にたまった悪いものもキレイにしましょう」
そう笑いながら、後ろ向きになって両手で臀部を開くように言われる。30㎝ほどある大きな注射器を突っ込まれて、温かいお湯が身体の中に逆流して入ってくる。痛みはないが、経験したことのない気持ちの悪い感覚。
首輪を引っ張られたまま前足を上げて、つま先立ちのもの欲し気な芸をしている恰好で待たされる。
「5分待ったら、トレイに連れて行ってあげますよ」
30秒もしないうちにお腹がゴロゴロし始め、脂汗が吹き出てくる。
「お願いもう許して、おトイレに行かせて」
聞き届けられるはずがないとわかっていながら、必死の懇願。
「それじゃあキレイにならないじゃないですか」
そう笑いながら、檜の風呂にふさわしくない薄汚れた安物の黄色いプラスチックの洗面器がお尻の下に置かれる。
「体育祭の時、先生の学生服姿、なかなかそそるものがありましたねぇ。文化祭のお茶会の訪問着も素敵でしたよ。フレフレ、美奈先生。がんばれがんばれ、美奈先生」
「お願い、もうダメ」
「あと2分30秒」
強烈な便意だけでなく、つま先立ちの姿勢が限界に近づき、鏡越しにもわかるくらい両足の筋肉がプルプル、ぶるぶると震えはじめる。脂汗が目に入るが、それでも腹筋に力が入らないように肛門だけを閉めて必死に耐える。
「うっ、ぐっ、ぐぅ」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み