華ちゃんは白血病だった ~西條看護主任~

文字数 2,454文字

華ちゃんは臙脂色のリボンタイをほどいて、上からボタンを外していきます。カップの中に細い指を入れて、ボロンと出てきた私の胸を片手でモミモミして、固くなっていた乳首をそっと口に含みます。赤ちゃんのように、ちゅうちゅう吸われると、身体の中にさっきの雷の破片が通ったようにビビッとなって、声が出そうになりました。
「華ちゃん、つぎわたし…」
我慢できなくなったので、身体を起こして選手交代を求めます。
リボンタイをほどいて、白のカッターブラウスをスカートからふわりと抜くようにして左右に広げます。抱きつくように手をまわして、レースのついた薄い黄色のブラジャーを外すと、ふわりと浮き上がりました。
「やっぱり恥ずかしい、奈緒ちゃん、かんにん…」
「アカン、華ちゃん反則や、かわりばんこ言うたやんか」
細い身体を捻じって交差した手のひらで胸を隠すのをつかんで引き離すと、そのまま畳の上に仰向けに押し倒すような格好になりました。
和菓子のみかさを割って左右に引っ付けたような、小さいけれどお上品な、かわいらしい白い胸です。男の先生にじろじろみられたり、走るとどんどん揺れて痛い私の大きいだけの胸なんかよりも、よっぽど女の子らしい、白うてきれいな胸です。乳輪もちいそうてお正月に飾る千両のような赤い小さい実がちょこんと乗ってます。
(よっぽど華ちゃんが羨ましいわ…)
そう思うと、いけずしたいような気持ちになりました。
華ちゃんにされたように、タコのように唇を尖らせてぼっちりでている乳首を吸いつくと、舌の先でころころころころと転がせました。
「奈緒ちゃん、こしょばい、降参や、かんにん~」
最初はちょっとしたおふざけやったんです。華ちゃんも子供の悪戯みたいに、大きい胸をお餅みたいにモミモミと触りたかっただけかもしれません。しばらく、脚をバタバタさせて笑っていましたが、「アン」と小さなうめき声がして手の力が抜けました。走ったあとのように「はぁ、はぁ」と華ちゃんの息が荒くなるんを聞きながら、唇と舌を使って夢中で攻め続けました。華ちゃんの細い膝がわたしのおまたの間に押し入ってきて、それがえも言われへんほど気持ちようて、うちもスカートのおまたの中に膝をいれて、パンツのきれを挟んでグリグリ押し付け合いをしました。

ちょぅど、その10月に華ちゃんのお父さんが東京に単身赴任になりました。お母さんも月に一回は東京に行かはるとのことになって、その日は親公認(華ちゃんのご両親に頼まれて)で、華ちゃんのマンションにお泊りするようになりました。
一緒に高校生には豪勢な上寿司の出前をとって、アリバイ作りにちょこっとだけ宿題して、おじさんの高いウイスキーを「なんや木の搾りかすみたいな味やなぁ」と言いながら飲んで酔っぱらったり(華ちゃんは、すぐに首まで真っ赤になりました)、兄のエッチなビデオをこっそり持ってきて、ひっついてまさぐり合いながら一緒に見たり、裸のままお股広げて柔軟体操ごっこしたり、泡だらけになって一緒にお風呂に入ったりしました。
小さいころから、口うるさいお母さんに、「女の子らしいしなさい」「おしとやかにしなさい」とせんど言われて、日本舞踊とかお茶とかお花とか習わされてきました。でも華ちゃんとやったら、どんな恥ずかしいことでも、いやらしいことでもできました。裸になって、代わりばんこに、モンシロチョウみたいなあそこの穴やお花のようなお尻の穴まで見せあいっこして、触りあいっこ、舐めあいっこして、いっぱい、いっぱいキスをしながら、しびれるくらい足を絡めて、朝までひっついて抱き合うて寝ました。

でも、そんな幸せな楽しい日は、長うは続きませんでした。
高校二年になった秋でした。校庭での全校集会の時に、わ~と後ろで声がしたので見ると、華ちゃんが鼻血をだして倒れていました。一緒に保健室について行ったときは、保健の先生も、寝不足か貧血やろうと言うてはったんです。
でも次の日、「入院して、しばらく学校を休む」という電話があって、慌てて病院行ったら、いつもは物静かで別嬪さんのおばちゃんが廊下で半狂乱になって泣いてはりました。そこで、おじさんから急性骨髄性白血病であと半年くらいの命やと聞かされました。
その時のことまではよう覚えているのに、そこからのことはプツンと切れたように記憶にありません。自転車ほったらかしにして、バスで帰ったんか、歩いて帰ったんか、何食べていつ寝たんかも覚えてません。
それがこの病院でした。学校のプリントやお知らせをもって、それがない日でも毎日通いました。白血病やということも治らんということも、他の子にも本人にも言うたらあかんて言われてました。ちょっと強い貧血やということになってましたけど、ちょっとずつ歩けんようになって、うちも噓つきやてわかってたと思います。
毎日、車いす押して病院の屋上に散歩にいきました。
最後のほうは、病気と抗がん剤の影響で、前よりもっと白う細うなって、あれほどサラサラやった髪の毛もみな抜けてしもて、うちが徹夜して編んだ赤い帽子をかぶっていました。それでも華ちゃんは、透きとおるほどの、ほんまにほんまに別嬪さんでした。
「奈緒ちゃん、わたし、死んでしまうんかな…」
一回だけ、そう聞かれたことがありました。
「あほなこと、いわんとき、もし華ちゃんが死んだらうちも一緒に死んだげる」
それは、慰めでも思い付きでもありません。ほんまに華ちゃんと一緒に死のうて思てました。話が暗うなったらあかんと、できるだけ何とのう軽う言うたつもりやのに、ずっと我慢してたのに、あふれてくる涙と嗚咽を止められませんでした。
「奈緒ちゃん、おおきに、でも死なんといてな」
「なんでよ」
「奈緒ちゃんは、ずっと長生きして、ずっとわたしのこと忘れんとってほしい…」
「そんなん嫌や…、華ちゃん、おらんようにならんといて、うち一人にせんといて…」
車いすに縋り付くように泣きじゃくる私のことを、華ちゃんは細う、細うなった指で、いつまでも、なでてくれました。

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