やってきたのは美奈先生ではなかった ~安堂洸太郎~

文字数 2,761文字

午後二時。来客を告げる呼び鈴がなりました。
この家に妙齢の女性が来るのは初めてのことです。
「ふぅ」
気持ちを落ち着けるように、大きく深呼吸をして戸を開けました。
でも、そこにいたのは美奈先生ではありませんでした。
私が二年、三年と連続して数学を担当したことで一気に成績が上がり、10年ぶりに我が校から最高難関の国立大学法学部に現役入学した才媛、久我麻希さんです。彼女は他の生徒と違い、個人的によく質問に来ていたので、精神憑依ではなく、単純憑依で「わからないところを上手く教える」というアプローチをしていました。「安堂先生のおかげで、苦手だった数学が大好きになりました」とキラキラした大きな目で言ってくれました。
学校のマドンナで、才貌両全ともいうべき彼女だけにそうしたのは、美奈先生と同じ、どこかで男として良く思われたいという贔屓的なものがあったことは否めません。もちろんそれは、まだその正体を知らなかった頃の話です。
グリーンチェックの制服姿とは違う、胸元に大きな襟がついた清楚な白いワンピースとべっ甲のカチューシャがよく似合います。
ただこれは、想定外のことで驚きました。
「久我さん、どうしましたか?」
「卒業式で、きちんと御礼を言えておりませんでしたので」
そう言って下げた黒髪がさらさらと揺れます。
人あしらいに慣れていれば、「いまから来客があるから」と上手くいなして帰ってもらうのでしょうが、まごまごとしている間に、「美味しいケーキを買ってきたので、一緒に食べましょう」と、身体をすり抜けるようにしてすたすたと家の中に入ってきました。

華奢で身長は私よりも小柄です。顔の体積は半分くらいしかありません。表の間の和室のソファにきちんと正座をして、私の淹れた紅茶とお持たせのフルーツがたくさんのったケーキを食べながら、大学生活が楽しみなことや将来の希望(国際弁護士になること)など、あれこれと一方的に話し続けます。彼女と二人きりになるのも、正対するのは初めてのことです。サラサラとした黒髪、透明感のある子猫のようなキラキラした大きな目。眼鏡をかけていないせいか、その本性を知っている私でも、本当に吸い込まれてしまいそうです。
「先生、おトイレをお借りしてよろしいでしょうか」
「あっ、ああ、どうぞ」
我が家はウナギの寝床と言われた古い京町屋で、表の間からトイレに行くには、居間を通るか、土間に降りてもう一度靴を履く必要があります。降りなくてもいいように襖から居間を通ってトイレに誘導しようとしたときです。
立ち上がりにフラフラとして倒れそうになり、私に縋り付く姿勢になります。足の悪い私は踏みとどまることができず、押し倒されるように尻もちをついてしまいました。
「すいません。慣れん正座して、お行儀ようしたから足がしびれちゃいました」
そう笑いながらも、大きな瞳に射すくめられ、動けなくなりました。ごくりと息をのむ音が耳に響きます。私の右足は彼女の広がった股の間に入り込み、スカートは大腿があらわになるほどにずり上がっています。
しびれた足をさするようにして、私の膝に股を押し付けると、ミニスカートが更に上がっていきます。わざと見せつけられていることが分かっていても、細い白い足の付け根にまで光が入り、ブラックホールのようにそこから光を逃がすことができません。
「安堂先生、大変なことに巻き込まれて災難でしたね」
白い包帯が大きく巻かれた私の頭を、母のように細い胸に抱いてそう言いました。
「お礼とお詫びにうちが慰めてあげます」
耳元でそう囁くと、私の唇に彼女の唇を重ねたのです。
そのまま、慣れた手つきで私のズボンのチャックを下ろし、白いブリーフの中に手を入れました。白い細い指で私の膨張した陰部を上下しつつ、舌を絡めてきます。
「うっ」
自分の小さな呻きが聞こえたことで、微かに残っていた理性が立ちふさがりました。
「久我さん、やめなさい。何をしているんですか」
肩を押すようにして柔らかい唇を外すと、かすれた声がでました。しかし、私の陰部は、自らの二面性をあざ笑うかのように最大限に勃起しています。それをちらりと見た彼女の顔は、いつものと透明感とは正反対の、あの淫乱でサディスティックな悪魔的な笑顔に変わっていました。思えば、茶道部の部長であり、子供の頃からお茶やお花を習っている彼女の足は、一五分正座しただけでしびれるはずがありません。そしてこれは、私への御礼でも慰めでもなく、自分をのけ者にして美奈先生を凌辱した赤江たちに対する当てつけであり、同時に美奈先生への復讐でもあるのです。

「先生の、とってもおっきいね、うちの小さいし上手いこと入るかな?」
魅入られ視線を外せない私をよそに、上目遣いのまま膝をつき、順手にしたり逆手にしたりしながら、ゆさゆさと扱き続けます。顎先がとがった小顔の細い小さな唇が大きく開かれると、陰部をねっとりと咥え込みました。
「うっ」
柔らかく吸い込まれ、口蓋と頬で挟まれ、舌と喉の筋肉で揉まれていきます。無理に手で扱くようなことはせず、ちらりちらりと視線をあわせたまま左の頬へ右の頬へと転がされ、じゅる、じゅるという音とともに唇が緩やかに上下します。
そのまま足を広げて、白いワンピースがふわりと舞って私の身体を反対の姿勢で跨いできました。下着を履いていません。少女のような陰毛のないツルツルした一本の白い割れ目が開いて、ゆっくり私の顔の上に乗せられます。日本の指でVの字に広げて、ゆさり、ゆさりと腰を振りだすと、その割れ目から赤い柔肉が見え隠れし、若草のような淫靡で馥郁な香りとともに、朝日に照らされた秘泉の水面のようにキラキラと光ります。私の右足に抱きつくようにして、固く引き締まった睾丸を左手が包み込むみ、さわさわとさすり、揉み始めます。
その快楽は背筋を通り、指の先、足の先まで全身に及びます。
「うぐぅ」
彼女の腰を両手掴みましたが、それを持ち上げることも、横に倒すこともできません。とろりと泉から一本の滴が落ちてきます。同時に、足の先から力が入り、ふくらはぎの筋肉が強張っていくのがわかります。
私には、赤江のように射精をコントロールできる経験や耐久力はありません。ミイラ取りがミイラになる。彼らの玩具にされている女子高生や人妻の顔が浮かびます。緑川のように細い足で陰茎を蹴られ、踏みつけられ、青野のように顔の上にまたがられ、窒息するまで腰を左右に振られるのです。美奈先生と一緒に奴隷にされる姿が浮かびます。ふくらはぎの強張りは、大腿にまで及んでいます。腰まで上がればジ・エンドです。
(我慢できない。もうだめだ)
その時、窓ガラスの外の格子に人の影が通るのが目の端にはいりました。
天の助けか「ブーブー」と再び玄関ブザーが鳴り響いたのです。
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