華ちゃんと佐久間が重なって見える ~西條看護主任~

文字数 2,040文字

「はぁ~ぁ」
うちの人生はなんなんやろ。病院も看護婦も結婚も、なんもかも嫌になってきた。
仕事もできんくせにプライドだけ高い看護婦、患者が急変したらバタついて看護婦に当たり散らす医者、生き死にの病気にかかってても、ちっぽけな社会的地位や権威にしがみつく患者、入院中は一度も面会にこなかったのに、亡くなったらこの世の終わりのように泣く家族…。「わたしたちは毎日面会に来てたことにしてください」「財産は長男に譲ると本人がいっていたと言うてください」と頼み込んで来る人までいる。
結婚する前は、「看護婦となんて…」「なんで看護婦なんや…」とけんもほろろで、横浜には行かんでええ、病院は継がんでええ、長男に継がすから揉めんように早いこと相続放棄せい、それが結婚を認める条件やなんやいうてたはずやろな。
それが結婚式で、こっちの招待客見てコロッと態度が変わって、跡取り長男の嫁との間も上手いこといってないんか、最近では「はよう孫の顔が見たい…」「いつ戻ってくるの…」とか言うてくる始末。新人プレイボーイも調子に乗ってるんか、「おやじも奈緒に介護してもらいたいらしい…」「あのおふくろがここまで下手にでるんは初めてや…」とご機嫌さん。なんでうちがあんたらの思い通りにせなあかんのや。介護? うちはあんたらの下のお世話するために看護婦になったんと違うわ。あほか…。
空の缶コーヒーを爪先で蹴っとばかすと、カランコロンとええ音がして気分が少し落ち着きました。

昔はうちにも、恋愛とか嫉妬とかの感情はありました。学校で華ちゃんが他の子と話をしてるだけでも胸がチクチクいたんで、お泊りの時には、いっつもよりきつうお乳を噛んだり手を縛ったり、明るいとこでピンク色のおいどの穴まで上向かせて、可愛いおそその穴を広げて、「奈緒ちゃん、もう堪忍…」ていうても許さへんかった。ジュルジュル大きな音たてて吸うたり、お尻の穴がキュッとするまであんなこともこんなこともしてた。
そのぶん華ちゃんにも、いやらしいこと、恥ずかしいこと一杯されたけど…。
でも今から思うたら、私はどちらかといえばいけずするのが好き、華ちゃんはいけずされるんが好き…、やったでしょうか。二人の愛の誓いや言うて「せーのーで」でひとさし指を入れました。ぴりっと何かが破けたような感じがあって、血が出て痛かったけど、それがうちの処女喪失の初体験です。遠い昔というよりも、前世の記憶のような気さえします。
なんでやわかりませんが、最近時々、華ちゃんとポンコツの佐久間が重なることがあります。看護実習できたときは、お勉強はできるけど、先輩看護婦や患者にきつう言われるだけで、涙ぐんでしまう気の弱いところのある子でした。その一方で負けん気が強く、努力家で一回叱られたことは繰り返さんし、患者さんにも丁寧やし、ええ看護婦さんになるやろうと目をかけてました。
一年半ほど前やったか、研修で北陸まで行って、一緒に温泉に入った時も恥ずかしいんか、小さいお尻ともじゃもじゃのお股とかわいらしい胸をタオルで一生懸命に隠してました。それやのに、うちの夫と浮気をしたり、この間は安堂さんに、あないなことをするやなんて、女の子いうのは見た目だけではほんまにわからんもんです。
うちも人のこと言えんけど…。

こない気持ちが高ぶったんは、高校の時以来です。もう長いこと忘れてたくらいです。
これも華ちゃんに引きずられたんかもしれません。そもそも、うちは性格的に看護婦さんに合うてないと言うことは、自分でもようようわかってます。でも、それを隠すために分厚うに被りすぎた「白衣の天使」やらの仮面がいつの間にやらが重とうなってきたんです。自業自得です。どうしたらええんやろか。華ちゃんとこに早ういきたいわ。このへんが、結婚も、看護婦の仕事も辞めるええ頃合いなんかもしれません。
機械室の入り口の十五㎝ほどのコンクリートの段差に、だらんと足を開いて座ると、春の風がナース服の中に入ってきます。ガーターストッキングとショーツの間の素足の腿の部分に当たる冷気がスースーとして、ショーツを横にずらすと東山から吹き降ろす風が、まだ熱を持ってる陰部にあたります。
「あぁ~」
山の神さんにじっと見られているような、風の神さんに嬲られているような、おまたは冷とうなっていくのに、おそそだけは、まんだ消し炭のようにほこほこ、ほこほこと、いこってきます。
安堂さんには、明後日、もう一度、二時間ほど付き添い検査をするとお話してあります。
井上先生も最初の頃は「研究論文の対象になるか…」と興味をお持ちやったようですが、症状が収まってくれば、そのまま退院になるでしょう。脳神経はわからんことが多いので、そんなケースはままあるんです。チャンスは、もう明後日の一回だけかもしれません。
そうや、明後日は、佐久間にも手伝わせよ…
「華ちゃんも、お空の上から見とってや」
なんや面白いことになりそうやと思た瞬間、強い風がブルブルと身体を震わせました。
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