第34話 火星は、地球の鏡だった

文字数 780文字

 女の話によると、火星には、高度な文明が栄えていたというのだ。
 かつて火星には濃密な大気と海が存在していたことは、NASAの火星探査機から送られてきたデータや、その後の調査で明らかになっていた。火星の質量は地球の10分の1程度しかない。そこで大気や大量にあった水が消えた理由として、火星が低重力のため宇宙空間に流出したとの説を主張する科学者たちもいたが、質量が小さいことが理由で大気が逃げたのなら、火星よりも小さい土星のタイタンが地球の大気よりもはるかに濃密だという、事実と矛盾する。
 そこで、大気が無くなった有力な説として出てきたのが、磁場説だった。火星に探査機を送り続けたNASAの研究者たちは、火星に磁場がないため大気は太陽風に吹き飛ばされた、との説を発表した。だが、かつて火星には磁場があったことも分かっている。ではその磁場がなぜなくなったのか? その答えは誰も出せなかった。
 その答えを誰もわからなかったのも、当然だった。火星の大気は、科学者たちの常識を超えた理由で消滅したからだ。
 では、火星の海と大気は、なぜ消えたのか?
 女の説明によれば、地場はいわゆる自然現象で止まったのではなく、火星人たちの全面核戦争によるものという驚くべき内容だった。
 そして、核爆発の衝撃で磁場が止まり、火星の大気は宇宙に逃げて行った。火星内部の対流も止まったことでオリンポス山など太陽系最大の火山の噴火も止んだ。噴火による大気への供給も無くなったことで、地表には太陽風が吹き荒れ、海も大気も無くなってしまった。
 火星の地層内に、核爆発の痕跡があることを突き止めた科学者もいたが、その核爆発が起きた理由まではわからなかった。
 それは無理もないことだった。核戦争の規模はすさまじく、地表の全てを焼き尽くし、文明の痕跡も跡形もなく完全に消滅させたのだから。
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