第35話 最後の火星人

文字数 797文字

 ところで火星人は、SFに出てくるタコのような異形の形をした種族ではない。外見は人間とまったく見分けがつかないほどよく似ている。特に、いくら化学が発達しても、いまも古代人が創り出したアホな宗教を妄信し続ける、真実よりも都合のいい嘘を信じてしまう扇動されやすい精神構造は、人間とさほど変わりはなかった。
 だから幼児が、遊んでいた高価な玩具でも壊すかのように、火星を破滅させてしまったのだ。
 その精神構造はあまり変わらないが、高度な知能を先に手に入れた火星人たちは、人類よりも5千年余も早く文明を築くことができた。だが2度も世界大戦を引き起こした人間と同じように二つの覇権勢力に分かれて激しく対立していた。そしてある日、時の愚かな指導者たちが、核の全面戦争を始めた。
 火星の全表面は一気に火の海と化し、その地獄から逃れようと大小の数十隻の宇宙船が脱出を試みたが、次々と敵の攻撃を受けて撃墜されていった。
 その核戦争から運よく生き延びた30人を乗せた一船が、地球に辿り着いた。だが、被弾していた宇宙船は南米のジャングルに着陸すると大破した。
 生存者は男3人、女2人の成人たちだけだった。どうにか助かった彼らはジャングルで様々な原住民たちと出会った。彼らはしばらく原住民たちの集落で一緒に暮らした後、住まいを転々としながら暮らしていた。そこで彼らは、人間が血で争う光景を目の当たりにした。人間にも火星を滅ぼした指導者たちと同じ好戦的なDNAを持つ人たちがいることを知った彼らは、化学が発達した将来、人類の指導者たちが火星と同じ過ちを起こすことを恐れた。
 そこで自分たちが持ち込んだ機器が悪用されないよう全てを処分し、能力を隠し原住民たちの中に同化して生活することを決めた。
 その彼らの技術の痕跡が、南米に残っている。インカのカミソリも通さない石の壁は、火星人たちの技術で造られたものだ。
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