第56話 袋小路3

文字数 638文字

「こっちよ!」
 女が俺の腕をまた掴まえて、装甲車を連想させるような機械の背後に突っ込むように逃れた。
 ブシュ! ブシュ! ドーン! ドーン! ブシュ!
 男とロボットの激しいバトルで、室内の機械は滅茶苦茶に破壊された。破片と黒煙が室内中に舞った。破壊されたのは機械だけはない、床や壁も抉られて無残な状態になっていた。
「ここから出て!」
 女がまた命令してきた。今度は左腕を掴まえると、壁に開いた穴に腰を屈めて飛び込むように入った。
 そこは何かの配管か、いや排出抗のようだった。照明らしきものはどこにも見当たらないが、直径は2メートルほどもあり、余裕で立つことができた。見方によってはミニトンネルのような感じだ。
 俺は少し安堵した。映画でエイリアンから逃げるシーンで出てくる、配管路を腹ばいになって逃走するような苦しい姿勢で移動する心配はない。俺は、そのシーンが嫌いだ。同じような体験はしたくはない。
「これは排水管路よ。5分おきに機器の洗浄に使った汚水が流れ来るわ。急いで、ここから脱出しないと、あなたは溺れ死ぬことになるわ」
 そう言われて、ドキッとした。撃たれて死ぬのもいやだが、もちろん溺死も、まっぴらごめんだ。ある意味、撃たれたほうが楽だろう。汚水を飲んで死にたくはない。
「どうする?」
 ひどく動揺し、混乱する思考回路を正常に働かせない俺の脳に代わって、口が動いた。
「さあ、全力で走るわよ! 急いで!」
 その間も、バトルの音が管路にも響いていた。

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