第27話 火星を目指す難民たち2

文字数 1,015文字

「あんたは、好きにすればいい」
 石田は眼を合わせて、足手まといが減った、とでも思っているかのような顔色で、俺の言葉にあっさりと応じた。
 残った俺たちは棒のように立って、みんなが逃げていった方角をしばらくの間見つめていた。石田たちの後ろ姿は、あのシリアの内戦やISから逃れる難民たちを彷彿させた。違うのは身に纏っている衣服ぐらいだ。
「彼らは、どこに行くのだ?」
 俺は見つめたまま、大谷に訊ねた。
「火星に行ける船がまだ残っていて、そこに向かっています」
 大谷は、石田たちが向かった方角に眼を向けたまま、心配そうな声で答えてきた。
「仮にその宇宙船に乗れたとしても、あのロボットたちに見つかって撃ち落されるんじゃないのか?」
「はい。でも地球にいれば、いずれは殺されるか、捕まってしまうでしょう。覚悟の上での行動です」
 顔を合わせた大谷は、重い口調で言葉を返してきた。
「仮に、火星に行けたとしても、ここと何も変わりはないんじゃないのか?」
 俺は続けて疑問をぶつけた。
「いえ、AIたちはなぜか? 火星にいる人たちまでは攻撃していません。火星の環境は厳しいですが、AIたちが支配する地球とは違って、人が本来の姿で生活しています。火星は、人間の最期の希望の星なのです」
 大谷は、不安と期待を複雑に入り混ぜているような顔色をしながらも、火星への想いを馳せるかのように説明してきた。
 大谷の説明によれば、俺の浅知恵で知っている火星とはまったく違う星になっているようだ。俺が知っている火星は、大気が希薄で平均気温が-43度と非常に過酷な環境だ。とても人間が永住できるような星ではない。
 そこで、火星に移住した人間たちは、火星の死火山を次々と大噴火させた。その様は、まるで地球に生命が誕生する前の大地のように、噴煙が火星の大気圏を覆った。高さが26キロもある太陽系最大の山、オリンポス火山の直径が600キロもある火口は溶岩の巨大な湖となり、そこから吹き上げる噴煙の量だけで、地球の全ての火山の排出量の何千倍にもなった。そして、その効果は大きかった。大地に雨が降り、分厚い雲が火星の気温を温めた。まだ大気中の酸素は人が呼吸できるほどの量には達していないが、植物を屋外で植えることも可能になっているほどだ。いずれ酸素マスクなしで、生活できるようになるだろう。
 その話を聞いていくうちに、俺も火星に行ってみたい気持ちになった。
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