第16話 家族への思い

文字数 685文字

 俺は、あまりの衝撃に返す言葉を失った。二重瞼を大きく見開き口を半開きにして、見覚えのある大谷の眼を見ていた。
 まさか? ターミネーターの映画のようなことが現実に起きた、ということなのだろうか? いや、そんなことは絶対にあり得ない。
 だが絶対にないとは、本当に言い切れるだろうか? 
 俺の思考はひどく混乱しながらも、大谷は真実を話している、その内容には嘘では無いと頭で分かっている一方で、あまりの事の重大さから疑念を無理やり心に引っ張り込んでいた。最悪の悪夢のような内容の全てが本当だとは思えない。そんな話など信じない信じたくない、と真実を否定している自分がいた。
 改めて家族のことが頭に浮かんできた。歴史が普通に流れていれば、俺の一人娘と、生まれているかもしれない娘の子供が、日本の何処かに住んでいるはずだ。だがこの異様な状況からすると、日本も俺が知っている国ではないということだ。はたして、俺の娘は無事なのだろうか? いますぐにでもここから飛び立って、日本に行きたい思いに強く駆られた。
「ここでぐずぐずはしていられない。奴らは、僕たちが死んだか調べに、直ぐにやってきます。 この翼では、もう空は飛べません」 
 大谷は言葉を続けると、背中に担いでいた汚れた布袋から迷彩色のサポーターのようなものを二つ取り出し、両膝に装着してくれた。そのサポーターは、大谷も肘と膝に着けていた。
「これで、通常の半分以下の力で自由に動くことができます。さあ、急ぎましょう」
 装着を終えた大谷は、ここでゆっくりなどしてはいられない、というような顔をして、すぐに促して きた。
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