第15話 注射針

文字数 689文字

「私は、宮島恵吾です。あそこはいったい、何なのですか?」
 まだ鼻腔にしつこく纏わりつく埃を右手で払いのけ、かなりの歳下ではあるが、一応丁寧語を使い、少しむせた声で訊ねた。
 余談だが、年下どころか、大谷の親父よりも、いやもしかして祖父よりも俺のほうが年上かもしれない。見かけは、中年のイケメン親父だ。他人はどう思っているかは、知らないが。要は、女にもてればいいだけだ。ま、生きているときにはもてたことがないので、まだイケメンの男と思っているのは、たぶん俺の見当違いかもな。
「あそこは、AIの野郎たちが造った都市です。宮島さんがいたビルは実験棟です。宮島さん、首に埋められたGPSを取り除きますので、少し痛いですが、我慢してください」
 大谷は声をすかさず返すと、ポケットから奇妙な注射針のような器具を取り出し、俺の首筋に押し込んだ。
 極太の注射針を刺されたような激痛が、頭から手足の指先まで全身に走った。思わず声を出しそうになったが、若返った俺の見た目と違って実年齢は孫のような若い男の前で、みっともないのでグッと我慢した。
「もう大丈夫」
 スプレー式の止血剤のようなものを注射痕に吹き付け、取り出した米粒のようなGPS機器を足で踏み潰しながら、男が声を繋いできた。
「AIが造った都市?」
 まだ痛みが残る首筋を左手で揉み解しながら、信じられないという顔で訊き返した。
「はいそうです。人間が築いた文明はAIに乗っ取られました。生き残った人間は、AIの監視下で家畜のように生きています」
 大谷は反吐を吐き捨てるかのように答えると、埃で汚れた顔をひどく曇らせていた。
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