第九章 月夜の廃墟にて人の縁に感謝する(7)
文字数 1,110文字
「君は、ロスロー卿に会ったんだね」
「え……どうして知っているの!?」
認めてしまったようなものだった。やはり、黒猫とのやりとりを聞かれていたのだ。
「おっかない
あの時、ロスローが異端魔術やエルトランへと向けた鋭い眼差しの裏には、そんな過去のいきさつがあったのだ、とリラは納得したが、彼らが吹雪の中で戦った
ウルイはさらに踏み込んだ話をする。
「
「う……ち、違わない……」
リラは足を踏ん張り、地面を見つめる。いますぐにでも泣きたいぐらいだった。今日一日、機密を守れたことがあっただろうか? 調査の進め方は見直したほうがいいようだ。
「アマダ君の言っていた、お偉いさんの
ウルイが覗き込むと、リラは自信なげに顔を上げ、どうにか笑顔を作って見せた。
「確かに、ここまで来たからには役目を果たしたいっていう気持ちもあるわ。でも、無事に帰ってくるのを最優先で考えているから、どうか心配しないで。だけど……わたしってそんなに危なっかしいかなあ?」
もと来た道を引き返すあいだ、リラがしきりに振り向いて亡き恩師の話をするものだから、学舎の脇を通り抜けて鉄柵が見えるまでにはずいぶん時間を費やした。ふたたび茂みをかき分けるのには骨が折れたが、ふたりは無事に東の敷地へと戻れたのである。
緊張が解けたところで、今朝は早起きだったリラが長いあくびをひとつ。つられたウルイは目元を拭い、そういえば、と切り出した。
「ずっと昔のことだけど、アトワーズ師匠にも娘さんがいたそうなんだ……。でも、これからという若さで亡くされたみたいでね。だからこそ、さっき言ったように、リラ君の中に面影を見ていたんだろうねえ。名前かい? 名前はたしか……ナージャっていったかな」
第十章につづく