おもな用語解説

文字数 3,890文字

※五十音順

~~~~~地名など~~~~~
〈ウトロ〉
東の山奥にある、薄暮(はくぼ)の森に囲まれた地域一帯をさす。ウトロ村はその中心となる集落で、木材の切り出しを産業とする。巡礼の宿場としてにぎわうが、温泉が湧き出ることから湯治(とうじ)のために逗留(とうりゅう)する者も多い。一帯は雨の多さで知られているが、十年前に起こった出来事が村を一躍有名にした。

〈キャンタベリーの町〉
遺跡研究の中心地だったものが交易の要衝(ようしょう)と相まって形成された経済都市。魔術師の養成校や、市場、交易のための船着き場、巡礼路、貧民街など、多くのものを取り込みつつ発展した。

〈クイルツッカ〉
東の山脈を越えた先にある、ポウトリ湖畔の大きな漁村。おもな産業は、漁業や木材加工、パクナス魚醤やヌルイカ酒の製造だが、宿場としてもたいへんなにぎわいを見せている。

〈シューリール川〉
薄暮の森からポウトリ湖をへて、港町フランパーナへと流れる川。早船(はやぶね)によって多くの人や物資を運んでいるが、現在、海賊の横行が噂されている。

〈チャタン〉
キャンタベリーより西へ半日の所にある、遺跡が密集した広大な円形の窪地(くぼち)。周囲とは断崖によって(へだ)てられており、濃霧と密林、危険な魔獣によって多くが謎に包まれている。研究者と盗掘師がしのぎを削るだけでなく、学生の実習が頻繁に行われている場所でもある。

〈フランパーナ〉
北にある巨大な港湾都市。南北、東西に流れる二本の川でキャンタベリーやクイルツッカとつながっている。富裕層が多く暮らしており、表通りには宮殿もかくやという屋敷を連ねるが、路地を曲がるとその景色は一変するという。

〈ポウトリ湖〉
薄暮の森より流れるシューリール川が注ぐ、水量の豊富な湖で、周囲には多くの漁村が点在している。大昔の火山活動がもとで形成された。毎夜のごとく濃霧が発生し、幻想的な風景は歌にも読まれている。

〈ミュルヌーイ峠〉
キャンタベリーと、ポウトリ湖やウトロを隔てている東の山脈を越えるための古道。とくに東側が険阻(けんそ)なことで有名だが、巡礼者は皆、わけあってこの難所を行く。中ほどの砦には、彼らを保護するためにソラオアイリより派遣された騎士たちが詰めている。



~~~~~建造物や組織など~~~~~
〈王立カンタベル魔術学院〉
幾人もの優れた魔術師を輩出しているが、格式を重んじるあまり、時代の変化に取り残されつつある。新しく奨学金制度が設けられたが、因習を打破できず、定着には至っていない。

〈海賊〉
シューリール川からポウトリ湖にかけて出没し、商船や漁村を襲っている。応戦した村人が矢を射かけても不思議な力で阻まれたという。また、黒塗りの剣を携えた男の姿が目撃されている。フルミドから海賊の噂を聞かされたリラは、それを避けるためにミュルヌーイの峠越えを選んだ。

〈旧敷地〉
カンタベル学院の西側に隣接する旧敷地。現在は廃墟と化しているが、鉄柵によって閉鎖されるまでは、度胸試しや魔術師同士の決闘、非公式な実験などに使われていた。学院条例により侵入禁止となっている。

〈高位魔術研究室〉
学院が多大な期待を寄せる、規模の大きな研究部門。室長を務めるのは、屈指の実力を持つ魔術師ロスローだ。彼によって競争主義が徹底されており、階級らしきものまで存在する。リラが感じた通り息の詰まるような場所だろう。

〈後援貴族会〉
学院の運営に強い発言力をもつ有力貴族の団体。出資者のほか、自身が学院を出身とする者や、子弟を学院に入れている者が多い。リラは学生時代に彼らの不興を買って、除名寸前まで追い込まれたことがある。以来、両者の関係はよくないようだ。ネイドルたちからしても、後援貴族会は目の上の

に違いない。

〈第三・古代史研究室〉
学者アマダを中心とする研究室。手違いによって、旧敷地より傾いたまま移築された研究棟は

と揶揄されている。

〈高屋根の礼拝堂〉
所有権の所在が不明なことから、旧敷地の居住区で唯一解体をまぬがれていた建造物。伝統的に決闘の場として選ばれてきたが、現在は何者かの手によって見る影もないほどに破壊されている。

盗掘師(とうくつし)・盗掘村〉
チャタンの周辺に集落を構え、遺跡からの盗掘(とうくつ)により生計を立てる集団。分派を余儀なくされたトルシャンの一団が流れ着き、定住したことが盗掘村の起こりとされる。チャタンでは、研究者や学生たちとのいさかいが絶えない。盗掘技能以外にも、奇術や魔術、暗殺の技に至るまでを代々受け継いでいる。

〈トルシャン(荒れ地の民・漂泊の民)〉
風のように国々を渡り歩く剽悍(ひょうかん)な民族であったが、自由な営みを奪われたことにより、生き残りをかけて分派した。彼らには、独自の特殊技能が伝承されており、通常の系統とは異なる魔術を使う者までいる。物語の中では、アトワーズ以外にも数名がトルシャンにゆかりをもっている。

〈貧民街〉
川が合流する低湿地帯に形成された貧民街。キャンタベリーの町の防衛上、現在は市壁の内側に取り込まれているが、大雨による浸水や健康被害が住む人々を悩ませている。噂では、怪しげな者が出入りしているほか、独自の(おきて)が存在するという。また、権力争いに敗れた貴族が身を潜めていたという逸話(いつわ)も。ほかの街区との往来は、いくさや疫病の発生時に、たやすく落とせるよう造られた、簡素な一本の木橋のみ。橋詰(はしづめ)には監視するための番所が置かれる。

〈ロシュフォード魔術師養成学校〉
歴史の浅い養成機関だが、自由な校風で一般市民が多く在籍する。カンタベルとは、設立時に関係がこじれてしまったため犬猿の仲だ。アトワーズいわく、戦場で魔術が戦果を上げたとたん、各地で養成校が建ち始めたとのこと。



~~~~~物品・生物・魔術~~~~~
〈ウトロ村の屋敷〉
無人の建物だが、人の出入りが報告されている。リラの記憶にはない建物。

〈オイバザクラの杖〉※造語
アトワーズが所持していた杖。オイバザクラ(追い葉桜)とは、初夏の頃、緑を深めつつある葉を追いかけるように新芽が出てくる桜。幅広の板を切り出せないため建築には不向きだが、堅牢で淡い桜色を帯びているのが特徴。杖は現在、所在不明となっている。

〈ゴブリン〉
人間が大陸にやってくるよりも前から原始的な文明を営んでいた種族。体は小さいが、貪欲でつねに腹を空かせている。人間との争いがもとで臆病になってしまった。

〈香草茶〉
炒った香草から抽出する飲料で、リラの故郷において親しまれていた。アマダが苦茶(にがちゃ)と評するほどの独特な風味のため、人によって好みが分かれる。作中において、リラが旅に持参するほか、ロウマンやアトワーズが()れている描写が見られる。

〈集団魔術〉
失われた(いにしえ)の魔術を追い求めるなかで発明された技術。数人から十数人の術者による詠唱を必要とする。大規模な結界の構築にも使われるが、一般的には、悪名高い戦場魔術のことをいう。数十年前のいくさにおいては甚大な被害をもたらしたことから、各方面より廃止の声が上がった。

〈戦場魔術〉
おもに、戦争で甚大(じんだい)な被害をもたらした集団魔術をいう。城壁を粉砕するような破壊力に秀でたものや、死毒(しどく)の雨が敵兵および土壌をも汚染するもの、さらには兵士の精神を麻痺させて、死を恐れずに戦わせるものまである。現在は国同士の取り決めにより、多くが使用禁止となっている。

〈姿消し〉
隠蔽性(いんぺいせい)の高さから、使い方しだいでこれほど危険となる魔術はないはずだ。現在は悪用や技術の拡散を防止するために、無許可での修得が禁止されている。権力者にすれば厄介な反面、魅力的ともいえ、術者の囲い込みこそが制限の本当の理由だろう。

〈杖〉
魔術の行使を補助するための杖で、長さは人の背丈ほど。それ自体に魔力はないが、師から弟子に贈られたり、後継者となる者が受け継いだりするなど、魔術師にとっては道具以上の意味をもつ。また、装飾を凝らして富や権威の証しとする者もいる。学生に支給される簡素な杖もあるようだ。

〈土人形〉
単純な運搬作業を行う魔法仕掛けの人形。学院では、高齢化が進む庭師(傷病兵の保護的雇用)の補助をするために用いられている。古代の戦争技術を模倣(もほう)したものだが、実戦に耐えるわけもなく、現在は建築事業や警備などへの転用が見られる。九章での描写からは、陶器製ということがわかる。リラの師匠は、畑の害獣よけに応用しようとして失敗を重ねているようだ。

〈盗まれた魔術書〉
異端研究者のエルトランによって盗み出されたとされる書物。リラは学院から、奪還せよとの密命を受けるが、中身については一切知らされておらず、口外も禁じられている。

()(なわ)
リラが得意とする魔術。蛇の形をした影が走り、相手の足に絡みついて拘束する。待ち伏せ可能な仕掛け魔術〈伏せ縄〉もあるようだ。第二章でゴブリンの動きを封じた〈土蛇(つちへび)〉もこれらに近い。学生時代、リラが決闘に備えるために覚えた。

〈魔道〉
魔法に基づいた魔術とは体系を異にする技術や、人の道にもとる魔術を含めた総称。生贄(いけにえ)の儀式を必要とするものや、呪術、異界の住人の召喚などが知られている。これらの研究を行う者を異端者という。過去に歴史を終わらせた天変地異の原因を魔道に求める説も根強い。ただし、魔術のなかにも人道から外れたものは多く存在する。

駱馬(リャマ)
山岳の民にとって欠かせない生き物。非常におとなしい性質で、子供が世話をする。

〈ヤマカニワの杖〉※造語
物語の冒頭で、ロウマンがリラに贈った杖。ヤマカニワとは、厳しい高山に育つ、丈夫なカニワ((かば))の種類。建築には向かないが魔術師の中には好んで杖に使う者もいる。第九章の戦いにおいては、かなりの強度をもっているとみられる描写がある。
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登場人物紹介

おもな登場人物 ※五十音順


〈アトワーズ〉【四章 七章 九章】

学院の魔術師範を務めていた老人。出身とする漂泊の民トルシャンが、盗掘師たちの遠縁であることや、敷地の片隅に天幕を張って暮らしていたこと、毎度のようにリラをかばっていたことから、役員たちに「荒れ地生まれの変わり者」と煙たがられている。リラの師であるロウマンとは、過去の大いくさを生き抜いた戦友。リラに、亡くした娘の面影を見ていた。


〈アマダ〉【二章 五章】
リラが所属する〈第三・古代史研究室〉のすこし太った室長。「うだつの上がらない、あばら家の亭主」と揶揄されている。気さくで人懐っこそうな顔をしているが、がさつで繊細さなど持ち合わせてはいない。彼の衝動的な行動で研究員たちは振り回され、たびたび危険な目にあわされている。生まれは港町の裕福な商家だが、わけあって学者になる道を選んだ。


〈ウルイ〉【五章 九章】

〈第三・古代史研究室〉では最古参となる年配の魔術師で、独学による魔術は、なぜか探索に向いたものばかり。のんびりとした人柄だが、自由気ままな室長を諭すこともある。リラに対しては、とくに優しく接するようだ。アマダのせいで危機に瀕することの多い研究室の面々だが、彼のような、おっとりした者がどうやってくぐり抜けてきたのかは不明である。


〈エルトラン〉【一章~】

学院の書庫に侵入して重要な書物を盗み出した男。高位魔術研究室に所属する優秀な魔術師であるが、異端魔術の研究に手を染めていたという噂が絶えない。吹雪の中での追撃を振り切ったあとは行方をくらませているが、東の森林地帯に潜伏し、ウトロの事件に関わっているのではないか、と目されている。出自についても諸説あり、得体の知れない人物である。


〈ジュナン〉【二章 三章】
冒険者の一団に属する駆け出しの剣士。魔物退治のあと、しばらくリラと行動を共にする。一人前だと認められたいがために護衛の役目を不服がったり、戦いを前に緊張した表情を見せたりするなど、初々しさの抜けない彼女だが、どこで身につけたのか、洗練された剣の腕をもつ。また、ドラゴンに襲われて生き延びたのだから、強運の持ち主というほかない。

〈ネイドル〉【一章 三章 四章】
カンタベルの運営に関わっている重役員だが、魔術や学問への造詣は深くない。リラを呼びつけて威圧的な態度で書物奪還を指示した。腹いせのために〈成金趣味、もしくはむっつり顔〉と名付けられていることを本人は知る由もない。貴族会という目の上のこぶとエルトランの事件に悩まされているが、彼の関心はもっぱら、美術品の収集や美食に向けられている。

〈フルミド〉【三章 五章 八章】
学院に雇われて半年となる初老の用務係。役員の遣いでリラの研究室を訪れ、本部中央棟への呼び出しを告げた。生気に乏しい風貌からは想像できない、器用さと気配りの細やかさをもち合わせている。噂話が好きで人間観察を趣味とするため、リラに助言したり、そのうろたえる姿を見て楽しんだり。さらには、任務に向けた足掛かりをリラに与えることとなる。

〈ボナルティ〉【一章 三章 四章 八章】
いつもネイドルの背後に控えている丸眼鏡の小男。彼も同じく役員の地位にあるが、金切り声でわめき立てる姿は、まるで口うるさい官吏だ。リラが、単なる腰巾着だろう、と見て油断したのも無理はない。彼の言い分はこうだ。ただ飯を食わしてやっているのだから恩を返せ。さらに返済金の免除と帰郷の許しという甘美な言葉で、リラの反抗心を完全にくじいた。

〈マレッタ・トウヤ〉【六章】
カンタベル学院に勤めて二十余年、学生食堂の厨房を仕切る調理人である。口達者で腕っ節が強く、たとえ貴族の子弟であろうが容赦せずに叱りつけるため、学生たちに恐れられていた。容姿についての表記は少ないが、大勢からの求婚を受けたことがあり、力強い人間性とも相まって魅力的な人物のようだ。我が子と同年代のリラとは、固い友情で結ばれている。

〈リラ〉【序章~】    
カンタベル学院で歴史研究に従事する魔術師。険しい山に囲まれたクルルの里で生まれ育つが、放浪の老魔術師に才能を見出されたことから山を下り、同学院において魔術を学んだ。故郷の山道で鍛えられた俊敏性と、丈夫な体をもつ。本人は慎重派だと主張するが、根っからの研究者体質で、とかく興味が先走るため、周囲の見解が必ずしも一致するとは限らない。

〈ロウマン〉【序章 二章 五章】
放浪の果て、クルルの里にやってきた老魔術師。山での厳しい暮らしを送る人々の支えとなるべく里の外れに住み着いた。そこで出会った少女の才能を見出し、弟子に迎える。医術にも長けているが、魔術しかり「世の中には万能なものなど存在しない」と弟子を諭す。また、学院で魔術師範を務めるアトワーズとは、過去のいくさにおいて生死を共にした仲だった。

〈ロスロー〉【四章】

立派な体格をした、学院でも屈指の実力をもつ魔術師。攻撃魔術の達人であり、学院内外で立てた功績によって称号を授与されている。貴族の出身であることを誇示しないなど、自らには徹底した実力主義を課すいっぽう、伝統や格式を重んじる傾向は強い。最近、酒館で朝まで飲む姿が目撃されている。ふだん堅物なだけあって、酒が入ると面倒な人物に違いない。

その他の登場人物 ※五十音順


〈ヴィルジット〉【二章 三章】

重役員のネイドルによって、リラに与えられた偽名。冒険者協会の証書には剣士とある。

 

〈カドマク・ニルセン〉【五章】

ウトロの山奥で金脈を発見した探検家。四度目の探索では、部隊もろとも消息を絶った。

 

〈セノルカ・バリン〉〈ベイケット・クラン〉〈オハラス〉【八章】

二十年ほど前の除名者記録では「学院条例の著しい違反のために処分となった」とある。

 

〈ゼラコイ〉【二章 八章】

閲覧室に猫を放ったり、戦場魔術の廃止を訴えたりした魔術師。消えた賢者として有名。

 

〈チャドリ〉【六章】

学舎の厨房において食材庫の管理を任されている。ものぐさだが、料理長の信頼は厚い。

 

〈テルゼン〉【八章】

トツカヌと話していた若い魔術師。紫紺色の長衣を着ており、身分が高い人物のようだ。

 

〈トツカヌ〉【八章】

立派な体格をした老人。テルゼンには不満げな態度を見せる。酒を飲まないと眠れない。

 

〈ナージャ〉【七章】

アトワーズの教え子。六年前に卒業していることから、リラよりすこし上級生のようだ。

 

〈ブルニ〉【八章 十章】

いくさでの悲惨な経験がもとで人間不信に陥った守衛の老人。リラにはすこし心を開く。

 

〈ベルカ〉【五章】

アマダと共に、歴史研究に従事している学者。思慮の欠ける室長に詰め寄ることがある。

 

〈ポロイ〉【二章 五章 八章】

二千年前の災厄にて大船団を率い、滅亡寸前まで追い込まれた人類を新大陸へと導いた。


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