第一章 日常はついえ 魔術師は悲嘆に伏す(2)
文字数 1,693文字
重厚な
待ち受けるふたりが学院の運営に深く関わっているのはもちろん、決して
いっぽうの彼女は、
髪は
くま
を浮かべている。長衣と、左手にした木製の長い杖が、学院における身分を表していた。「クルルの里のリラです。ご用件を
恰幅のよい男は足を机の横へ放り出すように組み、リラに対しては
大事な研究のさなか、不意に呼びつけたのは彼らのほうだ。気持ちを鎮めてここまで来たのに横柄な態度はどういうことか。
「よく来たな。こうやって話すのは初めてだったかね」
呼びつけたからには無視もできない、と言いたげだ。リラはゆっくりと顎を引き、身を硬くする。男の口からは、ある出来事が語られた。
「君もよく知っての通りだ。研究員
であった
エルトランが、我がカンタベル学院の書庫より、魔術の研究を記した書物を盗み出し、そのまま行方をくらませおった」事件の発生は数ヶ月をさかのぼる。リラは、まだ雪が残るその日も研究室にこもり、積み上がった資料と格闘していたのを覚えている。
かねて
やがて雪は解け、学生や研究員はそれぞれの課題や業務に向かう日々がつづいた。
記憶をたどるリラの耳に、同意を強いるような声が響く。
「エルトランの所業を決して許すわけにはいかない。君も学院に雇われる身であるからには、自らの責務を心得ているだろうね?」
リラは
「我々としては何ひとつ手がかりがなく、お手上げであったところ、ウトロ村より奇妙な知らせが届いたのだ」
「奇妙な知らせ……ですか?」
ウトロは、学院が置かれるキャンタベリーの町よりも、ずっと東の山中にあり、リラも学術調査の道中に何度か立ち寄っている。
「住人の
もはや、世間話などではない。
全身に緊張が広がるとともに、リラはすこし首をかしげた。ウトロには屋敷と呼べる立派な家屋などないからだ。湧き出る温泉に集まる
「
男は自らの説明に頷き、リラの顔をかすめるように見る。足をほどいて向き直ると、指先で小刻みに机を鳴らしながら言い渡した。
「そこでだ、ウトロ村の事案の調査もしくは解決を君に命ずる。もしあの裏切り者の所在をつかんだ場合は、よいか、危険を冒してでもやつを