第37話 ラギー・フレームワークと現代の人権外交:2023年4月
文字数 1,332文字
(現代の人権外交の概説をする)
2023年4月。
この物語では、人権外交が重要な位置を占めるので、2021年現在の人権外交の近況を概観しておく。
●ビジネスと人権に関する指導原則
人権は国家だけの問題ではなく、国家・企業・人との関係の問題である。この方向は、2008年の国連人権理事会の「保護,尊重および救済の枠組み」(ラギー・フレームワーク)と2011年の「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP:United Nations Guiding Principles on Business and Human Rights)で明確になった。
ラギーは、国家の人権保護義務、企業の人権尊重責任、被害者の救済へのアクセスというラギー・フレームワークを提示した。
UNGPは、企業に、(1)人権尊重のコミットメント、(2)人権リスクを予防する継続的なプロセスである人権デュー・ディリジェンスの実施、(3)侵害が発生した場合に是正するプロセスの設置を求めた。
UNGPは自主的に取り組む「指導原則」で、20か国以上がUNGPに基づいた行動計画を公表している。2015年のG7,2017年のG20サミットでの首脳宣言では,人権問題解決を促進する政策的枠組みが求められた。
UNGPにより、現在では,企業は取引先の人権侵害にも責任を負う。これには自社やサプライヤにおける強制労働や児童労働,採用時や昇進の差別、ハラスメント、安全衛生、ダイバーシティ、外国人労働者の労働条件、工場やプラント建設時の先住民の権利、広告宣伝における差別的表現、製品の販売先や使用状況などが含まれる。企業は、NGO、顧客、投資家、調査会社、監査会社からの質問や要求にも答えなければならない。
海外の株主は、UNGPの影響で、2020年頃から、日本企業の役員の女性比率に積極的に介入している。
●女性差別撤廃条約(CEDAW)
女性差別撤廃条約(CEDAW)は、1979年12月に国連総会で採択された。
2004年に採択された「一般的勧告25」では、条約の実践をもとに、締約国の取組を3つの義務に整理している。
第1の義務:差別からの保護
第2の義務:暫定的特別措置
第3の義務:ステレオタイプへの対処
第2の義務では、「具体的かつ効果的な政策及びプログラムを通して、女性の事実上の地位を改善すること」になっている。
2009年7月、国連女性差別撤廃委員会は、日本の条約実施状況に関する第6回目の報告を審議し、女性差別解消に向けた日本政府の取り組みが進んでいないことを厳しく指摘した。
筆者は、UNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)と女性差別撤廃条約(CEDAW)の2つのムーブメントは今後、合流すると考えている。
また、企業の人権尊重責任は今後の人権問題の中心になると思われるが、2021年時点では、国内企業の動きは遅れていて、多くの人には、なじみが少ない。このため、以下の物語では、経済制裁の記述が多く、UNGPの記述が少ないが、これは、UNGPを軽視している訳ではない。
参考文献
ビジネスと人権 伊藤 裕理
https://www.hitachihyoron.com/jp/column/afe/vol03/index.html
2023年4月。
この物語では、人権外交が重要な位置を占めるので、2021年現在の人権外交の近況を概観しておく。
●ビジネスと人権に関する指導原則
人権は国家だけの問題ではなく、国家・企業・人との関係の問題である。この方向は、2008年の国連人権理事会の「保護,尊重および救済の枠組み」(ラギー・フレームワーク)と2011年の「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP:United Nations Guiding Principles on Business and Human Rights)で明確になった。
ラギーは、国家の人権保護義務、企業の人権尊重責任、被害者の救済へのアクセスというラギー・フレームワークを提示した。
UNGPは、企業に、(1)人権尊重のコミットメント、(2)人権リスクを予防する継続的なプロセスである人権デュー・ディリジェンスの実施、(3)侵害が発生した場合に是正するプロセスの設置を求めた。
UNGPは自主的に取り組む「指導原則」で、20か国以上がUNGPに基づいた行動計画を公表している。2015年のG7,2017年のG20サミットでの首脳宣言では,人権問題解決を促進する政策的枠組みが求められた。
UNGPにより、現在では,企業は取引先の人権侵害にも責任を負う。これには自社やサプライヤにおける強制労働や児童労働,採用時や昇進の差別、ハラスメント、安全衛生、ダイバーシティ、外国人労働者の労働条件、工場やプラント建設時の先住民の権利、広告宣伝における差別的表現、製品の販売先や使用状況などが含まれる。企業は、NGO、顧客、投資家、調査会社、監査会社からの質問や要求にも答えなければならない。
海外の株主は、UNGPの影響で、2020年頃から、日本企業の役員の女性比率に積極的に介入している。
●女性差別撤廃条約(CEDAW)
女性差別撤廃条約(CEDAW)は、1979年12月に国連総会で採択された。
2004年に採択された「一般的勧告25」では、条約の実践をもとに、締約国の取組を3つの義務に整理している。
第1の義務:差別からの保護
第2の義務:暫定的特別措置
第3の義務:ステレオタイプへの対処
第2の義務では、「具体的かつ効果的な政策及びプログラムを通して、女性の事実上の地位を改善すること」になっている。
2009年7月、国連女性差別撤廃委員会は、日本の条約実施状況に関する第6回目の報告を審議し、女性差別解消に向けた日本政府の取り組みが進んでいないことを厳しく指摘した。
筆者は、UNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)と女性差別撤廃条約(CEDAW)の2つのムーブメントは今後、合流すると考えている。
また、企業の人権尊重責任は今後の人権問題の中心になると思われるが、2021年時点では、国内企業の動きは遅れていて、多くの人には、なじみが少ない。このため、以下の物語では、経済制裁の記述が多く、UNGPの記述が少ないが、これは、UNGPを軽視している訳ではない。
参考文献
ビジネスと人権 伊藤 裕理
https://www.hitachihyoron.com/jp/column/afe/vol03/index.html