第25話 パプア・ニューギニアの仕事:2023年1月

文字数 1,386文字

(T商事が、パプア・ニューギニアにワクチンを輸出する)

2023年1月。パプア・ニューギニア。ポートモレスビー。ジャクソン国際空港。

空港の到着ロビーの出口の人混みの中で、佐々波は、35歳くらいの中背のブルーネットの女性を人を探していた。右後方にそれらしい人影が見えた。人影が近づいて、目と目があった。
「佐々波さん」
目の持ち主が声をかけた。
「スミスさん」
佐々波は、応えると同時に、到着ロビーの出口を出て、右の方に進んで、スミスに近づいた。
「スミスさん。お久しぶり」
と声をかけた。
「佐々波さんも、お元気でなによりです。それにしても、佐々波さんは、日に焼けていて、日本人には、見えませんね。ところで、車は、あちらです」
スミスが、佐々波を駐車場の方に誘導した。二人は、スミスが準備した運転手付きのレンタカーに乗った。
「最近のポートモレスビーのコロナウイルスは、どうですか」佐々波がきいた。
「まだ、感染者が出ています。でも、ポートモレスビーは、東京みたいに、人がたくさんいる訳ではないし、マラリアとか、他の病気もありますから」
スミスが返事をした。
コロナウイルスの感染拡大時に、WHOは、アフリカなどの発展途上国では、爆発的な感染が起こると予想した。しかし、実際に、大きな感染拡大が見られた国は、一部にとどまった。佐々波は、その理由を、コロナウイルスが発生する前から、感染症の多い国や地域には、感染症に対するレジリエンスがあるからだと考えていた。
佐々波三郎は、T商事の海外システム部で働いていた。今は、メルボルンを拠点に活動している。海外システム部の役割は、商品の買い付け、販売網、それに、情報収集などの海外担当の仕事をシステムでサポートすることである。とはいえ、小さな事務所では、海外システム部と海外担当が実際には兼務になることが多かった。パプア・ニューギアは、その場合に当っていた。
今回の案件は、少し変わっていた。コロナウイルスのワクチンの輸出である。日本では、コロナウイルス拡大時に、最初は、ワクチンを作ることができなかった。しかし、2021年に入って、国内企業が、ワクチンのライセンス生産を請け負うようになった。東南アジアで、ワクチンの生産量の一番多かったのは、中国である。中国は、そのワクチンを使って、ワクチン外交を展開していた。日本は、第1に、欧米から、ワクチンを輸入し、更に、国内の接種分のワクチン生産を追加したが、希望者全員に接種が終了して、集団免疫が出来たのは、2021年も12月になってからであった。やっと、国内のワクチン接種が一段落したので、次に、国際協力で、国内のワクチン生産力を使って、ワクチンの輸出をすべきだという話になった。しかし、それまでの、中国のワクチン外交は、強力で、中国周辺の国には、既に、かなりのワクチン輸出がされており、日本が、後から、参入する余地はなかった。唯一、ほとんど、手のついていない国があった。パプア・ニューギニアである。パプア・ニューギニアは、交通の便が悪く、効率的なワクチン接種が難しかったのである。
とはいえ、接種が難しいから、今まで、進んでいなかったのであって、簡単に輸出はできない。そこで、パプア・ニューギニアとの取引のノウハウのあるT商事に、白羽の矢が立った。
こうして、佐々波が、パプア・ニューギニアを担当することになった。
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