第99話 タスクフォースの解散:2024年4月

文字数 1,584文字

(タスクフォースが解散する)

2024年4月。東京。T商事オフィス。
シャンパンが抜かれる音がした。
「それでは、これから、ゼロリセット計画タスクフォースの解散会を始めます。
本日は、特別にゲストとして、南山首相にもご参加頂いています。乾杯を南山首相にお願いします」
洋子が口を開いた。
「私は、ユニバーサル・ジェンダー計画を受けて、ジェンダー問題の解決のために政治の世界に入りました。スタートは、大航海時代の船乗りのように、何もないところから始めました。そして、ジェンダー問題の最強の解決策は、女性優先枠の設定であり、その最大の障害は、非ジョブ型雇用、つまり年功型雇用であると確信するに至りました。しかし、その先の航路は見えません。
ゼロリセット計画は、私が探していたジョブ型雇用を実現する新しい航路です。私は、この航路に希望を見出し、政府として出来る限りの支援をしてきました。この一企業をサンプルにした支援は、異例に見えたかもしれません。しかし、私は、この支援は、航路の開拓に対する支援であったと考えています。タスクフォースの皆様は、この航路に乗り出した船です。今日の解散会は、船が、無事に冒険から戻り、航海が終わったことに当たります。
これら、このタスクフォースの成功を見て、第2、第3のタスクフォースが船を出すことでしょう。
タスクフォースの船の帰還を祝って、また、危険を顧みずに、タスクフォースに参加された皆様の勇気を称えて、ここに乾杯します。乾杯」
3か月たって、人事管理以外の全ての、ミッションが終了して、タスクフォースが解散した。
ここで、賢明な読者は、タスクフォースが出来ただけで、魔法のように問題が解決するのは、いくらなんでも、話が出来すぎていると思われるかもしれない。その指摘は、半分正しく、半分間違っている。
半分正しいというのは、ご指摘のように、タスクフォースが全ての問題を解決していないからである。こう言うと、問題が残っていてもタスクフォースを解散してよいのかと思われるであろう。実は、問題はゼロではないが、大きなところでは支障がない。
その理由は、残りの半分は間違っていると言う部分にある。組織をジョブ型に変更し、プロジェクト中心、モジュール構成に組み替えれば、問題が発生したときには、特定のモジュールだけを取り替えればよい。これに対して年功型組織では、全ての部署が人事ローテーションでつながっている。この場合には、一部の変更は不可能といってよい。計算論的思考でいえば、モジュール分割されていない、大きなメインプログラムだけで構成されるようなシステムである。これは、俗に、スパゲティプログラムともいわれ、維持管理も、改造も困難で、出来るだけ早く、廃棄して、モジュール化された新しいシステムに入れ替えるしか方法がないと考えられている。
別の比喩を挙げるならば、明治時代の八甲田山の雪中行軍問題に似ているかもしれない。凍傷になった兵隊は、手足が腐り出す。これをそのままにすると全身が腐敗してしまうので、手足を切り落とした。年功型組織で、一部の組織で問題が発生するとその腐敗が組織に蔓延するのを防ぐ方法はない。手足を切り落とすことはできない。例えば、IT化が進んだ部署とIT化が遅れた部署があれば、組織全体は、IT化が遅れた部署に合わせる。こうして、IT化の遅れという病気が蔓延していく。手足を切断するように、一部の組織を切り捨てるのは、企業がつぶれそうにならないと非常に難しい。
つまり、問題は残っているが、組織が、ジョブ型になり、モジュール構造になったことで、問題の解決が劇的に容易になっている。
ゼロリセット計画の第1の目的は、ジョブ型組織に移行することであった。タスクフォースは、その一番の難題をクリアしたのである。積み残された小さな課題は、これから、解決可能である。
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