第97話 新しい組織の設計図:2024年2月

文字数 1,818文字

(タスクフォースが作業を進める)

2024年2月。東京。T商事オフィス。タスクフォース室。
タスクフォースのトップのリンカーンが口を開いた。
「これから、新組織の検討を始めます。今回は、現行のジョブリストのコアを拾い上げる新組織を考えます。意見は、クラウド上の原案に、コメントを書きこんでください。2日ごとに、修正作業を3回繰り返し、1週間で、組織図を作ります。システム指向、カスタマー指向、技術開発指向の目指す方向別に3種類の原案を作成しています。
1週間後に、この3つの組織案を集約します。
もう、ひとつの視点で、プロジェクト・ベースの組織案を作ります。支援部門を除き、組織は、プロジェクト・ベースで、モジュール化します。現行のジョブリストから、プロジェクト・ベースの組織モジュールを試作します。
質問はありますか」
手が挙がった。リンカーンが指した。
「現行のジョブリストを削りすぎてもよいのでしょうか」
「ジョブリストにパレート則が成り立てば、アウトカムズの8割は、2割のジョブが生み出します。2割のコアが外れなければ、削り過ぎの問題はありません。このためには、T商事出身のタスクフォース・メンバーに精査をお願いします。
また、ジョブの入替のために、収益性、新規性・将来性、成長速度などの項目でスコアを付けましょう」

ゼロリセット計画の実行上、2つの問題がある。
第1は、システムの再編である。レガシー・システムをクラウド・システムに入れ替えるシステムの開発時間と切り替え時間が問題になる。システムの開発に、ダマスカス対策レベルまで機能アップを図ると、数か月は必要で、その間は、レガシー・システムを休止できない。その間のメンテナンス担当者を新組織に入れない工夫がいる。
第2は、解雇問題である。リセット時には、社員を再度暫定雇用するが、1年以内に、社員数を半分にして、平均給与を2倍にしたい。そのためには、転職支援が必要である。ゼロリセット計画では、年功型雇用で、後払いになっている賃金は、精算金で整理する。この時点で、企業には、労働者の雇用義務はなくなる。
昔、米国で、HAL社は、毎年成績の悪い方から、1割の人間を解雇していた。転職する側から見れば、毎年、社員の1割の募集は、就職チャンスである。もし、HAL社の給与が、現在の会社の給与より高ければ、会社を辞めて、HAL社で働くことが合理的である。一方、HAL社は、解雇する人の代わりに、より優秀な人材を得る。しかし、そのためには、社員の給与が高くなければならない。つまり、IT化の遅れた労働生産性の低い、給与の低い企業は、社員を集められず、淘汰される。社員の1割の解雇は労働者だけでなく、経営者にも厳しい条件である。日本には再就職できる労働市場がないので、給与が安くても辞められず、社員が、逃げ出さない。このため、生産性の向上を図らないCEOも多い。社畜という言葉もあるが、これから見ても、年功型雇用は、人権侵害の奴隷制度と言えよう。
したがって、解雇問題の解決は、労働市場を早く創る点に尽きる。多くの企業が同時にジョブ型雇用に切り替えれば解雇問題はないが、特定の企業が先行して、ジョブ型雇用に切り替えると、再就職が難しいフライング問題が生じる。この問題は1企業では解決できない。
ユニバーサル・ジェンダー計画によって、フライング期間は短縮しているが、不十分である。この問題は、政府が、非ジョブ型雇用をしている企業に法人税を上乗せして、その財源で、ジョブ型雇用への移行で発生した失業保障と再教育の助成で解決が図られた。もちろん、タスクフォースにはそんな力はない。タスクフォースは、ゼロリセット計画タスクフォース・レポートを毎週出して公開していた。そこで、ジョブ型雇用のフライング問題を取り上げ、政府が対策を進めた。情報を公開して、皆で社会を変えていくことが、民主主義の基本である。ここでは、民主主義の良い点が発揮された。
まとめておくと、失業問題を、企業が抱えてはいけない。それでは、企業がセーフティネットの状態から抜け出せない。正規社員と非正規社員の身分制度もなくならない。失業に伴うセーフティネット問題は、企業ではなく、政府の問題である。セーフティネット対策で、短期的には、政府の負担が増えるが、企業が労働生産性を上げて、競争力を高められれば、中期的には、税収が増えるので、バランスがとれるはずである。
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