第22話 フランス大統領選挙:2022年10月

文字数 1,653文字

(フランスの大統領選挙があり、新大統領が誕生する)

2022年10月。フランス。パリ。
「大統領選挙の開票速報をお伝えします」
ニュースでアナウンサーが伝えていた。
「開票は、人口の少ない農村部が先行し、人口の多い都市部の結果は出るのが遅れます。
事前の調査では、第1政党の自由党のミッシェル・デュモン候補と、第2政党のフランス独立党のジャクリーヌ・ルパン候補の得票率は、55%対45%でした。
農村部の開票が先行しますので、最初は、ルパン候補の得票が、デュモン候補の得票を上回ると思われます。問題は、デュモン候補がいつルパン候補に追いついて逆転するか、という点です。
午後8時の得票比率は、デュモン候補対ルパン候補が、40%対60%でした。
午後9時の得票比率は、デュモン候補対ルパン候補が、45%対55%でした。
午後9時の時点では、ルパン候補は事前の調査結果以上に、健闘しています」
「午後10時の大統領選挙の速報をお伝えします。
午後10時の得票比率は、デュモン候補対ルパン候補が、47%対53%です。
デュモン候補は追い上げていますが、未だに、逆転できておらず、苦戦しています」
「午後11時の大統領選挙の速報をお伝えします。
午後11時の得票比率は、デュモン候補対ルパン候補が、48%対52%です。
デュモン候補は強いと言われた、都市部で、票を伸ばせずにいます。未だに、逆転できておらず、苦戦しています」
「12時です。最終結果がでました。
最終得票比率は、デュモン候補対ルパン候補が、49%対51%です。
フランス大統領には、ルパン候補が選ばれました」

10月のフランスは、食事が格段に美味しい収穫祭のシーズンでもある。パリでは、アート・フェスティバルである白夜祭が開催されると、美術館は夜通し開館され、午前0時には、セーヌ川から花火が打ち上げられる。
この時期、前大統領辞任を受けて、フランスは大統領選挙の最中だった。
今回のフランス大統選挙では、第1政党の自由党は、ミッシェル・デュモン党首が、第2政党のフランス独立党のジャクリーヌ・ルパン党首が立候補した。
選挙戦が始まって、1週間くらいが経過した時、ルパンの推定得票率は、デュモンに迫って来てはいたが、まだ、8ポイントくらいの差があった。言語要約システムを組み込んだ、政策要求を吸い上げるシステムは、順調に、働いていた。最初は20ポイントあった得票率の差は、12ポイント改善した。ある研究レポートによると、その半分くらいは、政策要求を吸い上げるシステムの効果だと分析されていた。これは、十分すぎる働きだった。ただし、まだ、差は残っていた。
選挙戦が始まって、1週間たった時点で、番狂わせが起こった。私は、デュモン候補の愛人だったという女性が出てきた。これは、選挙妨害かもしれないが、信憑性のない発言だけでは、実際に、大きな影響を与えることは少ない。実際に、昔のアメリカ大統領選挙でも、同様の問題が発生しているが、その時には、大統領候補が、否定して、問題になっていない。
こうした問題への対応は、無視するか、反論するかのいずれかになる。反論する場合には、タイミングと反論内容が課題になる。また、これは、愛人問題に固有の課題ではなく、悪事を働いたという風評が立った場合への、一般的な対処の課題でもある。
そして、デュモンは、最悪の対応をしてしまった。反論する時期が遅れた上、テレビ中継された反論は、明らかに、デュモンが真実を隠しているという印象を、視聴者に与えるものだった。テレビ中継のときの、デュモンは、顔色が異常に悪く、言葉もつまりがちであった。半ば、熱病にかかっているような印象だった。もちろん、真実は、闇の中で、デュモン自身以外には、わからない。しかし、この記者会見を境に、支持率が下がり出した。
投票が行われた。
開票の結果、ジャクリーヌ・ルパンが、ミッシェル・デュモンを2ポイント上回って、大統領の座を手にした。こうして、第2党の党首が、大統領に当選するという異例の事態になった。
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