第90話 タスクフォースの準備:2024年1月

文字数 1,344文字

(タスクフォースの人選が始まった)

2024年1月。東京。T商事オフィス。
「佐々波君、折り入って、お願いがあるんだ」
杉川社長が口を開いた。
「私は、社会復帰中です。それでも、お役に立つことはあるのでしょうか」
佐々波が返事をした。
「君が、断った場合には、この話は、なかったことにして、すっかり忘れて欲しい。最初に、この条件が呑めるかい」
「なにやら、難しそうな話ですね。ますます、自信がなくなってきました」
「出来るか出来ないかは、わたしが判断して、話をしているので、心配する必要はない。問題は、口外無用を受けられるかという点だ」
「1年間、ニューギニアで、全く仕事ができなかったのに、首をつないで頂きましたので、嫌とは言えません。口外無用の件は了承しました。して、お願いとはなんですか」
「君が今、首をつないだというので、なおさら、言いにくくなったが、首を覚悟で仕事をしてくれないかというお願いだ。まだ、はっきりはしないが、先日のAAパートナーズとの会合の結果、当社は、『ゼロリセット計画』を受け入れる方向で検討している。もちろん、この方法は、違法と判断されるリスクもあるので、その点は、現在、調べてもらっている。ここがクリアされれば、記者会見と同時にタスクフォースを立ち上げねばならん。タスクフォースの人間は、3年間はT商事には戻れないと思う。つまり、タスクフォースが動いている間は、給与が、T商事から出るが、タスクフォースが解散すれば、失業してしまう。
タスクフォースには、AAパートナーズが推薦した組織改革とITの専門家、AAパートナーズから派遣された人間、T商事の社員、T商事の社外重役の一部、弁護士などが想定されている。タスクフォースの構成員の詳細は、今後、AAパートナーズと打ち合わせて決めていくことになろう。
そこで、問題は、T商事から、誰を送り込むかということだ。私、杉川は、最後の御奉公だと思って、タスクフォースに参加するつもりだが、それも、AAパートナーズが、受け入れてくれるか次第だ。しかし、ゼロリセット計画には、T商事の社内事情に詳しく、かつ、現在の社員とのしがらみのない中堅どころ社員の参加が不可欠だ。
佐々波君は、1年間、現場を離れていたので、T商事をよく知りながら、今のT商事にしがらみがなく、客観的な判断が出来る。業績の良い社員は、大勢いるが、彼らの頭の中は、自分は、次はあのポストは狙えるといった考えにとらわれている。これでは、タスクフォースは務まらん。
その点から、考えると、佐々波君以上の適任者はいない。
もちろん、タスクフォースの一員になれば、T商事を退社するので、将来の人生設計が変わってしまう。しかし、ここで、ゼロリセット計画が出来なければ、5年後のT商事はないと思う。
これは、いずれ、T商事を退社しなければならないのであれば、今退社するか、5年後に、会社の倒産にともなって退社するかの選択だと思う。
返事は、今すぐというわけではないが、タスクフォースが動き出す前に、決めねばならん」
「わかりました。前向きに検討しますが、一晩だけ時間をいただけますか」
「もちろんだ。明日、また、会おう。良い返事を期待している」

翌日、佐々波は、タスクフォースへの異動を受けることにした。
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