第17話  ダマスカスの進撃:2022年12月

文字数 1,058文字

(ダマスカスがキャッシュレス・サービスを始める)

2022年12月。T商事。海外システム部長室。

秘書の中森鈴子が、口を開いた。
「部長ひとつ聞いてもいいですか」
鈴木が答えた。
「なんなりとどうぞ」
「最近、オーストラリア事務所の話を小耳にはさんでいると『だます』とか『すられた』という言葉がよく出てくるんですが、最近のオーストラリアってそんなに治安が悪いんでしょうか。格安パックがあるので、今度の正月休みに、オーストラリアに行こうと思っているんですが、止めた方がいいんでしょうか」
「はあ」
鈴木は、一瞬、何のことがわからず、呆然した。そして、気が付いて言葉を続けた。
「それは、『ダマスカス』と『キャッシュレス・サービス』のことかね」
「そうかもしれません。私は、治安が心配なだけなんですが」
「オーストラリアの治安は、特に悪くはなっていない。その点に問題はないよ。
ダマスカスはオーストラリアのネット取引システムだ。最近、日本国内でもサービスを始めた。サービスは企業と消費者のBtoCと企業対企業のBtoBだ。BtoCは、当社には影響がないが、BtoBは、競争相手になる。実際に、ダマスカスが出てきて、当社のオーストラリアの売り上げは、落ち込んでいる。ダマスカスは、先月から、スマホ決済のキャッシュレス・サービスを始めた。キャッシュレス・サービスは、カードでも出来るが、専用の読み取り機が必要な上に手数料が高いため、利用可能な範囲が限られていた。スマホ決済ならば、範囲が広がる。
まあ、この辺りは、従来から、中国で使われてきた技術で、驚くには値しない。しかし、次々に新しいサービスを展開してくる変化の速度は大きい。我が社は、ダマスカスの変化の速度に、ついていっていない」
「そのダマスカスって便利なんですね」
「便利だから、利用が、広まっているんだろう」
「ええと。そのパックツアーにも、便利なスマホ決済って勧誘があったんです。だったら、私使ってみます」
「あ」
鈴木は、一瞬ぽかんとした。こんなに、身近に、ダマスカスの利用者が出るとは、想像していなかった。鈴木は、続けた。
「そうだね。使ってみて、後で、感想を教えてくれるとありがたい」
「わかりました。それでは、新年の出社は、10日からでお願いします」
鈴木はやられたと思った。年末年始は書き入れ時だから、格安航空券はない。格安というのは、正月休み明けの航空券だからだ。中森鈴子は、一見、とぼけているようだが、実は、結構緻密に、休暇のOKを取る作戦を立てていたのだった。これは、中森の作戦勝ちだ。
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