第86話 首相官邸との会見:2024年1月

文字数 1,165文字

(長門会長が、南山首相とネットで会見する)

2024年1月。ネット会議。
南山首相は、ネット会議室システムをオンにした。画面には、長門会長の顔が見えた。
「南山さん。日本経営連の長門です。今日は、お願いがあります」
「長門さん。お願いとは、なんでしょうか」
そこで、長門は、ゼロリセット計画について、洋子に説明した。
洋子は聞いた。
「ジョブ型雇用への移行は、重要な問題なので、私も、ずっと、解決策を探していました。しかし、この計画は、本当に実行可能でしょうか」
「おっしゃる通り、今まででしたら、この提案は、実現不可能として却下されていたでしょう。しかし、ジェンダー共通フレームワークの次のバージョンが出た段階で、T商事が、UNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)に従って、人権侵害のブラック企業に区分され、取引先のリストから外されてしまえば、T商事には解散しかありません。この提案は、その事態を心配した筆頭株主から出てきています。T商事は、この提案の受け入れを求められています。拒否すれば、筆頭株主は、株主総会で、動議を出して、経営陣を入れ替えるか、将来性がないと諦めて、株を売り払うでしょう。経営陣が提案を拒否する選択はありません。問題は、この提案の合法性にあります。なにぶんにも前例がないのです」
「わかりました。私もお話を聞いて頭の整理が出来ました。現在の経済の閉塞状況を抜け出す唯一の方法は、違法にならない範囲で、企業組織を、瞬時に、ジョブ型雇用に切り替える方法を見出すということですね。そして、ゼロリセット計画は、唯一ではないが、もっとも有望な選択肢であるという理解でよろしいですか」
「そうです。ゼロリセット計画にこだわる必要はありませんが、人権侵害のブラック企業に区分されないようにする合法な方法が見つからないと、どれだけの企業が生き残れるか、わからんのです。この点をつめて欲しいのです」
スイッチが切られた。
洋子は、このあと、この問題を、法務大臣や、経済産業大臣と討議した。従来の手順では、問題を検討するための委員会をつくって、専門家を集めて討議するが、その方法では、時間が半年以上かかる。それでは、今回の事態には、間に合わない。洋子が務めていたG社では、意思決定は、1,2か月で行う。それ以上、時間をかけると状況が変化して、決定をやり直さなければならなくなる。それでは、いつまでたっても何も決まらなくなる。中期的な流れと、短期的な変化を読んで、できだけ早く意思決定することが、企業の生き残りに必須だった。
IT企業であれば、中間ステップは非常に少ない。社内に余分なものがあれば、生き残れない。しかし、政府の組織は、中間ステップの塊だった。「意思決定を早くするには、中間ステップをスキップするしかない。やってみよう」洋子は決心した。
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