第79話 佐々波の帰国報告:2024年1月

文字数 1,401文字

(佐々波三郎が帰国した)

2024年1月。東京。炉端焼きの店。
「社長。ただいま戻りました」佐々波が口を開いた。
「佐々波君、お帰りなさい」杉川社長が言った。
「佐々波さん、お帰りなさい」同僚の柏木愛子が言った。
「帰国まで1年半、随分、長かった。私も、待ちくたびれた」杉川はポッンと言った。更に、杉川は付け加えた。
「今日は、佐々波君の慰労会だ」
佐々波が、後ろのテレビに、ちらっと目をやると、30歳くらいの若い長髪の女性が映っていた。番組は、ニュースのようで、首相が、新しい法人税の法案を提出するとアナウンサーがコメントしていた。
「首相?」佐々波が首を傾げた。
「佐々波さんは一年も、日本を離れていたんで、浦島太郎ね」
「2022年まで、日本は、失われた30年とか、変わらない日本とか言われていたでしょ。でもね。2023年の1年の間に、30年の遅れを取り戻す大変化が起こったのよ。佐々波さんも断片的には、ご存知と思うけど、ニューギニアの通信環境はどうだった?」
「それが、変異株の脅威が広がるまでは、Wi-Fiが自由に使えたのだけれど、変異株が広がって、通信回線のメンテナンスがうまくできなくなったんだ。だから、つながっている時には、日本の状況が入ってきたのだけれど、情報は、とぎれとぎれになって」
「それでは、要点だけをかいつまんで説明するわ。
始まりは、2022年と2023年の選挙の結果、イギリスとドイツの首相、それから、フランスの大統領に女性が選ばれた時です。それから、2023年になって、怪我が原因でアメリカの大統領が亡くなってしまいました。副大統領は、ご存じのように女性です。つまり、アメリカの大統領も女性になりました。そこで、4人は、ネット上で女性サミットを開催したの。そうしたら、少数民族の虐待や差別問題を取り上げて、女性差別問題を取り上げないのはけしからんということになりました。つまり、少数民族の虐待や差別に対して経済制裁をするのであれば、女性差別に対しても経済制裁をすべきという点で意見が一致したわけです。この方針には、ユニバーサル・ジェンダー計画という名前が付けられました。それで、参加国は、ユニバーサル・ジェンダー計画に従って、国会議員に占める女性の割合が、45%未満の国には、関税を上げる経済制裁を発動しました。日本には、女性政治家が少なかったです。これでは、経済制裁対象国になって、持ちこたえられないということで、与党は、国会議員の定員の45%を女性に優先的に割り当てる選挙改正法案を通して、経済制裁を逃れようとしました。そして、衆議院が解散、総選挙をした結果、なんと、国会議員の7割が女性になって、それまでの与党は敗北して、衆議院では、影も形もなくなったんです。そこで、選ばれたのが、現在の南山首相なの。南山首相の与党のユニバーサル・ジェンダー党は、女性差別をなくすことを公約に掲げて、年功型雇用と役員に占める女性の割合が2割未満の企業には、制裁として、法人税率を10%上乗せする法案を検討しています。さっきのニュースは、いよいよ、法案が提出されるという話ね」
「猶予期限は?」
「そこが最大の論点だけれど、女性サミットの動きもあるでしょう。女性差別問題を、国会議員の数だけに、止めてくれそうにはないから、先手を打つべきだという論調がいまは強いわ。今の状況では、最大でも、6か月になりそうです」
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