第31話 コマーシャル出演:2023年3月

文字数 1,046文字

(南山洋子が、コマーシャル用の動画を撮影する)

2023年3月。東京。撮影スタジオ。
「もうちょっと上を向いて、リラックスして、カメラを見てください。
プロンプターの字は見えますか。
それを、ゆっくり、読み上げてください。
あ。ストップ。もう少しゆっくり読んでください。
いいですよ。その調子です。OKです。
それでは、本番行きます」
洋子は、プロンプターの文字をゆっくり読んだ。
「これって、パリコレのモデルさんみたいだわ」
と洋子は思った。

エリゼ宮殿の晩餐会は、パリコレの宣伝も兼ねている。このため、晩餐会の一部の様子は、写真で公開されている。その中に、洋子が、マダム・ルパンとムッシュ・ルソーに挟まれて立って微笑んでいる写真があった。2人に挟まれて立っている、謎の東洋美女は誰かということで、注目を浴びた。もちろん、誰かは分からない。こうした場合、無名であればあるほど、興味をかき立てることになる。洋子は、自分のことを格段の美女だとうぬぼれている訳ではないが、流石(さすが)に、ムッシュ・ルソーの選んでくれたドレスは決まっていた。馬子にも衣装の典型である。

そのうちに、どこからか、謎の東洋の美女は、G社の洋子ではないかといううわさが流れ出した。こうしたうわさは、無理に否定すると逆効果になる。そこで、G社としては、洋子の名前は出さずに、確かに、わが社の女性社員が訳あって、晩餐会に出席しましたというコメントを発表した。しかし、この程度では、うわさがおさまる気配はなかった。それなら、いっそのこと、洋子の写真を出した方が良いという話になり、洋子がG社のコマーシャルに出演することになった。コマーシャルといっても、テレビではない。G社は、一般人向けのネットワーク上のサービスをしているが、勧誘に、テレビ広告の効果は期待できないので、テレビには、広告を出していない。代わりに、動画サイトに20秒程度の動画広告を載せていた。これは、販売促進というより、企業のイメージアップを狙ったものである。G社のようなIT企業では、人が企業のポテンシャルの全てである。良い人材を集めるには、企業イメージは重要である。このために、動画サイトに、企業のイメージ動画を掲載していた。今回は、そのための動画撮りであった。

動画広告は掲載されたが、名前は出さなかったので、洋子は、「大統領とパリコレのお嬢さん」として、日本中に、よく知られた存在となった。それから、洋子は、街角で気づかれないように、メークをちょっとだけ工夫するようになった。
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