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文字数 903文字


「わたしが何をしたっていうの?被害者はわたしよね」
 ため息まじりに玲奈がいう。
「もう実家に帰ったら」
「しっぽまいて逃げだすなんていやよ!ケンカ売ってるなら受けて立つわよ」
「つらくない?」
「つらい!」
 二人の目の前に、ジントニックのグラスがすっと差し出された。
「はい、威勢のいいお姉さんにサービス」
 カウンターの中からバーテンダーがいった。
「ありがとうございます。うるさかったですよね」
 玲奈が小さくいった。
「いえ。それ飲んで元気出してください」
 見ず知らずのバーテンダーに励まされてしまった。そえてあったライムをギュッとしぼって一口飲む。ジンの香と強めの炭酸が思考をクリアにしていく。
 少し声を潜めて佳奈がいった。
「それで、どうしたいの。女と別れて戻ってきてほしいのか。それとも離婚したいのか」
「うーん。離婚はいろいろ面倒そうだしな。かといってよりを戻す気にもならないな」
「じゃあ、質問をかえよう。だんなは男としてあり?なし?」
「……なしかな」
「それ、もう終わってるじゃん」
「そうか、終わってるのか。これ」
 答えは簡単だった。
「ただやっぱり派遣社員じゃ一人暮らしはきびしいな」
「実家に帰るのはないんだ」
「いまさら帰ったところで、前の職場に復帰できるわけじゃないし。だとしたらまだ東京のほうが仕事は多いかな」
「資格はどうなってるの。なんだっけ」
「ファイナンシャルプランナー。三級は取った。でも一級じゃないと仕事にはならないな」
 まだまだ前途多難である。一級取る前に女が妊娠したから別れてくれなどといわれたら一発アウトだ。
 できればその前に打破したいのが本音だ。
「二級はなんとか手が届きそうなんだよね。ただ、一級は相当むずかしいからね。取れさえすれば、ちゃんと稼げて見返してやれるのに!ああ、くやしい!」
「でも、着実に近づいてはいるんでしょ」
「そう、あいつらが呆けている間に、確実に。虎視眈々(こしたんたん)と」
「虎視眈々と」
「もうさ、なんでもいいからやつらを見返すスキルがほしいよね。手っ取り早く!」

「そのスキル、俺がやろうか」
 背後で声がした。びくっとして振りかえると、一人の長身の男が立っていた。腕組みをして仁王立ちで。

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