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 二人が出ていったあと、さっそく.futureを検索してみる。まずはホームページ。さっきはさらっと流す程度にしか見られなかったが、今度は額をつき合わせてじっくりと見ていく。
「おしゃれだなぁ」
 玲奈がつぶやいた。トップにはしゃれたロゴが大きくピックアップされている。ギャラリーはさっき涼太郎に見せられた。
 オンラインショップを開く。まずはレディースから見ていく。
 いたってシンプルな服だ。やわらかそうな生地の質感を生かすように、ギャザーやタックがあしらわれている。基本は白と黒。それとパステル調の青みがかったうすいグリーン。これは今シーズン限定の色らしい。
 素材はたぶん、リネンやコットンの天然素材。全体的にシルエットはゆるめ。適度なダボっと感。そのくせだらしなさはひとつも感じさせず、清潔感がある。
 ジャケット、ブラウス、カットソー、ワンピース、スカートにパンツ。あとは服飾雑貨。どれとどれを組み合わせてもなじみそうだ。
「シンプルだけどおしゃれ。これ着てたら、おしゃれ上級者って感じよね」
 佳奈がいう。値段もそこそこはるけれど。でもがんばったご褒美にこのジャケットを買ったら、モチベーションもあがるし、自慢もしたくなるだろう。それくらいのスペックを持った服だ。
「彼らみたいなスタイルのいい人が着たらすごくいいけど、背の低い人や太った人が着たらアウトじゃない?」
「なにいってるの。スタイルの悪い人はなに着てもダメよ」
「それもそうか。はは」
 玲奈は小さく笑った。
「これをわたしが着るのか。着こなせるかな?」
「あんたはだいじょうぶ。だいたいのものは着こなせるもの。そこは安心していいよ」
「佳奈がそういうなら」
 つづいてメンズのページを開く。レディースと対をなすような服がならんでいる。
「うん、こっちもおしゃれだ」
「あの人がこの服を作っているのかぁ。全部一人で作ってるんだよね。すごいなぁ」
 玲奈はほうっと息をついた。佳奈が、どうしたという顔で見ている。
「いやぁ、才能だなあと思って」
「ほだされるなよ」
「そうじゃなくて!そもそもほだしようがないじゃない」
「そうしておくれ。さらにややこしくなるから」
「だいじょうぶです!」

「さて、どうする?」
 佳奈が聞く。
「なんだっけ?」
「こらこら。ちょっと整理しよう。そもそもの話は、離婚するかしないかだったよね」
「うん」
「で、この結婚はもう破綻しているという結論だったね」
「うん」
「離婚して自立するには、派遣社員では経済的に心もとないと。離婚を躊躇する理由はそこだよね」
「うん」
 玲奈はみるみるうちにうなだれた。
「しっかりしてよ」
「はい、ごめんなさい」
「ちゃんと稼ぐには、FP一級がいるんだよね。でもそれはいつ取れるかわからない」
「そうです」
「そこへモデルの話ですよ」
「うん」
「もうすでになかなかの人気ブランドなんだね。そこで専属モデルをするとなると、ある程度仕事も収入も期待できるわけよね」
「おそらく」
「どうだろう、モデルしながらでも勉強はできるんじゃない?」
「あっ、そうだね」
 思いつかなかった。玲奈の顔がパッと明るくなった。
「ねえ、モデルっていつまでの話なんだろう」
 玲奈はふと思った。
「ギャラもいくらなのか聞いてないしね。やっぱり一回事務所に行った方がいいのかも。契約内容をちゃんと聞いてきたら?」
「やっぱりそうか」
「むこうも打開策かもしれないけど、こっちも打開策かもしれないよ。うまくいけば一か月で結果が出るじゃない。聞くだけ聞いて無理そうならやめればいいんだし」
 なるほど、手っ取り早いスキルかもしれない。
「佳奈、いっしょに来てくれる?」
「うん、行くよ。さっきも流されかかってたしね。危なっかしい」
「そう、そうなのよ。一人でいったら丸め込まれそうでこわい」
「乗り掛かった舟だもん。つきあうよ」
 そういって、もらった名刺の住所をしらべてみる。このバーからさほど遠くないマンションの一室らしい。
 明日、玲奈が連絡することにした。

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