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文字数 974文字
メンズのモデルはすべて悠人なのだが、レディースのモデルはさまざまだ。
「いままでモデル事務所にオファーして、スケジュールのあう子に来てもらってたんだ」
「なんかばらばらというか、統一感がないだろう」
悠人がいう。
「なんだか俺が手を出しまくってるように見えないか?」
「そういわれれば、そんな気もするけど。一人にたのめないの?」
「うん」
と涼太郎が返事をした。
「たのめるにはたのめるんだけど、そのモデルだってほかの仕事もするわけだ。そうなるとイメージが定まらないのは否めないな」
そういうものか。悠人が固定されていれば、よけいそう感じるのかもしれない。
「そこで打開策だ。きみと悠人で統一して、.futureの世界観を作り出したい。専属モデルになってもらいたいんだよ」
「大役じゃない。そんなのわたしなんかじゃ無理よ」
「だいじょうぶ。デザイナーが見込んだんだ。それにきみと悠人はならんだときのおさまりがいい」
「あの」
佳奈が口を開いた。
「いまさらなんだけど、ほんとにモデルなんだよね。裏でいかがわしい何かとか」
玲奈はハッとする。危ない、流されるところだった。
「あははは!」
カウンターの中でバーテンダーが大笑いした。
「おまえら、よっぽど信用されてないな。ファッションデザイナーなんて胡散臭いもんな」
「ひどいな!」
「おねえさんがた、だいじょうぶですよ。こいつらは本物です。ブランド立ちあげる前からの常連ですし、うそはないです。わたしももってますけど、いい服ですよ」
「そうなんだ。よかった」
佳奈は胸をなでおろす。
「安心してもらったところで、一度事務所に来てもらえたらいいな。もっとくわしく説明したいから。実は一か月後に新作の撮影があるんだ。できればそれに間に合わせたい」
「一か月後……」
玲奈はいっぱいいっぱいだ。佳奈にグチを聞いてもらっていたのが、いつのまにかスカウトされていた。会社勤めしかしたことがないのに、いきなりモデルだのいわれても、
高校生くらいだったら飛びついたかもしれないけれど、二十代後半で雲行きの怪しい結婚生活をどうしようかと悩んでいる身にとっては日常とはかけ離れすぎて、リアルとして受け付けない。
しかもけっこうな大役らしい。
うーん、とうなる玲奈に
「ぜひ、いや必ず連絡して」
そういい残して、涼太郎と悠人は店を出ていった。