文字数 1,011文字


 涼太郎は大学で経営を学んだ。卒業後コンサル会社に就職したが、いずれ起業するつもりだったのだ。いまがそのときではないのか。
 自分のブランドを作ろう。
 そういって、悠人の思いを引き出した。どんなコンセプトで、だれがターゲットなのか。パターン起こしは誰に頼むのか、縫製工場はどこに発注するのか。最初のうちはオンラインショップをメインにして、売れてきたらセレクトショップにおいてもらおう。服だけじゃなく、靴やバッグも展開しよう。
 話しているうちに悠人の目に光がともった。そこからの悠人はすごかった。際限なくあふれてくるアイディアを確かな形につくりあげていく。書きつけるアイディアでコピー用紙の束はどんどんなくなっていく。
 二人は会社を辞めた。悠人をデザインに専念させて、涼太郎はマネジメントに駆けずり回った。悠人のデザインを商品にするための発注。オンラインショップの開設。ウェブデザインの発注。ロゴの制作。できあがりのチェック。
 二人の貯金はすぐに底をついた。若者が起業するための助成金を申請してなんとかしのいだ。
そのかいあって、あっという間に悠人の才能は世間に拡散されていった。
 そうなると、今度は涼太郎の手が足りない。一人でこなすのはもう限界と思ったときに摩季があらわれた。摩季は涼太郎の大学、会社の後輩である。
 何やら涼太郎がおもしろそうなビジネスをしていると聞いて手伝いたいと申し出てきたのだ。
 安定していないよといったら、安定させればいいでしょと摩季はいった。
 こうして三人体制ができあがり、今に至る。
 そして今、玲奈という四つ目のコマが悠人にどういう作用をもたらすのか。
 なんとしてもプラスに持っていかねばなるまい。さいわい、玲奈にはその気がない。今はそれを利用してうまく二人を動かしていくのが得策だろう。
 まあ、離婚成立後は好きなようにすればいい。
 悠人の中で、別れた彼女がどういう存在になっているのかはわからない。悠人がそれについて話したことはないし、涼太郎が聞いたこともない。聞く気もない。摩季にいたっては存在すら知らない。
 ただそれから恋人がいたことはない。軽い付き合いの人はいたかもしれないが、そこまでは関知しない。でも悠人の感情は一部が抜け落ちたままな気がする。
「涼太郎、顔が怖い」
 バックミラー越しに摩季がいった。
「摩季も頼むね」
 そういうと、
「わかってるわよ」
 あっさりと返事をした。じつに頼もしい。

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