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文字数 1,095文字
悠人が立ちあがった。つかつかと寄ってくる。
ツーショット。どんな立ち位置だっけ。
おそろしいほどボケっとした顔をしていたにちがいない。
「俺が動くから玲奈はだまってたってろ」
悠人はそういうと、玲奈に後ろから抱きつく。
おお。こんなに近いのか。
「表情は変えるなよ」
そうだ、無表情なのだった。
手をとられたり、腰を抱き寄せられたり、キスされるかと思うくらい顔が近くなったり。目を白黒させながら必死で悠人についていく。
少し慣れてきて、余裕が出てきた。悠人に合わせて動けるようになってくる。と、改めて思う。玲奈がハイヒールを履いているのに、まだ身長差がある。この人何センチくらいあるんだろう。なんか余裕があって安心するなぁ、などと思ってしまった。
そんな思いを知ってか知らずか、悠人は正面からぎゅうと抱きしめた。ひいっと小さく悲鳴をあげると、悠人がふっと息を吐いた。玲奈の両手は宙を泳ぐ。
「EVE。手」
カメラマンにいわれてしまった。
悠人が体を離して玲奈を見おろす。
「どうするんだっけ、この手」
「ふだんどおりにしろよ」
「……忘れた」
「おいおい」
そういうと、玲奈の手を持ち上げて自分の肩にかけた。悠人は玲奈の腰に腕をまわす。
「いいね、そのまま顔はこっちに」
カメラマンのいうとおり顔だけカメラにむける。
カシャカシャカシャ。連写音が鳴る。
「はい、オッケー!」
「おつかれ!」
悠人に背中をぽんっとたたかれた。玲奈は一気に脱力する。
「はああ、つかれた……」
摩季がくすくす笑いながらお茶を持ってきた。
「一服したらもう一回ワンショットよ」
そうだった。
「はじめてにしては、いい感じよ」
「ほんと?」
「うん。あと少しがんばって」
摩季に励まされる。先ほどの悠人を思い出す。
笑われたな。ふっと息を吐いたとき。
圧倒的な経験値の差は埋めようがないけれど、なかなかやるな、くらいはいわせたい。
目がほしい。
そういったよな。そうか。目か。
それならば。
ぎっとぎとの視線、くれてやるよ。
二度目のワンショット撮影。ポーズの勉強のために、雑誌だって何冊も立ち読みしたのだ。
絶対笑わせない。
右に左に体を入れ替えるけれど、カメラから目だけははずさない。ときに正面から挑むように、ときに流し目で、ときに見おろすように、ときに上目づかいで。
「EVE、いい! すげぇ、いいよ!」
カメラマンの声がはずむ。
どうだ。
ちらりと奥に立つ悠人を視界の隅にとらえる。悠人は食い入るように玲奈を見つめていた。
してやったり。そうでしょ? くぎづけじゃない?
思わず、くふ、と笑みがこぼれた。
「はい、オッケー! 終了でーす」