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文字数 1,038文字



「ファッション誌から特集の依頼が来てるのよ。女性誌が三、男性誌が一。しかも一誌は表紙」
「ええ、まじですか」
「女性誌はEVEがメインだけど、サービスショットで悠人が入るの。逆に男性誌のほうは悠人がメインでEVEがサービス」
「ツーショットはマストなのね」
「そうよ。エロさ全開でおねがいね」
「エロモードは搭載されてないんだけど」
「この前の撮影よかったわよ」
 あの、ぎっとぎとの視線か。
「そっか、やってみる」
 ついこの間まで、ただの派遣社員だったのに。それが雑誌の表紙を飾るなどとても信じられない。あまりのロケットスタートにかえって怖気(おじけ)づいてしまう。
 でももう降りることはできない。吹きとばされないように必死に手綱を握っていなければ。
 雑誌の撮影は好調だった。玲奈もだいぶ慣れて多少のぎこちなさは否めないものの、一人でこなせるようになった。
 表紙はEVE一人のアップだ。これはもう、モデルというより女優かアイドルではないか。こんな方向でいいのだろうか。また俺様の機嫌を損ねるんじゃないかと思ったけれど、悠人は意外にも機嫌よく撮影を見守った。
「もういっぱしのモデルじゃないか」
 撮影終わりに悠人がいう。そんなふうにいわれると照れてしまう。
「おほめにあずかりまして」
「うん、まじで」
 ときどき、こうやって真顔で見つめられる。なんだかそわそわと落ち着かなくなってしまう。その目の奥に潜んでいるものには触れたくない。気づかないふりをして目をそらす。
 それしかできない。悠人だってわかっているはずなのに。
 ツーショット撮影は苦しい。悠人が触れたところが熱を持つから。
 雑誌の取材と前後して、大手化粧品メーカーのコマーシャルが決まった。メイク用品、メインは口紅だ。
「ちょっともう大変!」
 摩季は東奔西走(とうほんせいそう)している。
「あっちもこっちも打ち合わせ!」
 事務所にいる暇がない。玲奈も忙しい。夜遅くなるのもたびたびで、土日にも仕事が入いる。
 陽介はどんな仕事なんだとしつこく聞いてくる。アパレルの広報というのをいまいち信用していないようだ。
 だからといって強くもいえない。それくらいの後ろめたさは持ち合わせているようだ。それをいいことに、玲奈は仕事を優先している。
「不規則なのよ」
 そういってやった。
 雑誌は、大々的に宣伝をうつことになり、駅構内に表紙のポスターが張り出されることになった。
 モノクロの玲奈のアップ。真っ赤に彩られた半開きの唇。ぎっとぎとの視線。
 陽介は気づくだろうか。見もしないだろうな。
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