文字数 1,205文字



 約束は週末の土曜日の午後にとれた。電話をしたら涼太郎はとても喜んでくれて、連絡がなかったらどうしよう思っていたといった。頭の中では、玲奈でことは進んでいるらしい。
 期待にそえるかどうか、と玲奈が口ごもると、とにかく来てくれればいいからとえらく歓待されている。
 もしかしたら、はいというまで帰してもらえないんじゃないかと不安を覚えたほどだ。
 当日、高円寺駅の南口で佳奈と待ち合わせ、当のマンションへ向かった。時間ちょうどにマンションのエントランスについて、インターホンを押す。待ってましたとばかりに、返答があった。
 すぐにドアが開いて、エレベーターで上に上がる。エレベーターを降りたときには、すでに部屋のドアは開いていて、涼太郎にこっちこっちと手招きされた。
「すんごく期待されてるね」
 佳奈はちょっと呆れていた。
「断れない雰囲気だったらどうしよう」
 玲奈の不安に佳奈は、だからいっしょに来たんでしょうと鼻で笑った。

 招き入れられた部屋は2LDK。リビングにはおおきなダイニングテーブルと椅子が六客置かれ、打ち合わせはここでやるのだという。
 まあ、すわってと涼太郎が椅子を引いてくれる。
 悠人はすでに向かいの真ん中にでんとふんぞり返ってすわっていた。今日はもう俺様が発動しているらしい。
 涼太郎がコーヒーを出してくれて、何枚もの資料をテーブルに並べた。社長って雑用係だっけかと思うほどの甲斐甲斐しさである。
「まず、契約内容と仕事の話の前に、イメージキャラクターについてざっくり説明しよう」
 涼太郎が話しはじめた。そして一枚のラフ画を玲奈たちの前に差し出した。一人の女と「EVE」の文字。黒いノースリーブのロングワンピースを身にまとって、髪はあごのラインのショートボブ。
「これがEVEという.futureのイメージキャラクターだ。きみが変身するんだけどね」
「イヴですか」
「そうだ。人類史上はじめてオトコをたぶらかしたオンナだ」
 悠人が口を開いた。
「ええ?いい方!ていうか、男ってのっけからたぶらかされてたんですね」
「バカな生き物だな」
「ほんとですね」
「あんたがいうのはやめなさい」
 佳奈ににらまれってしまった。
 つぎに涼太郎が差し出したのは顔のアップだった。色鉛筆でぬってあるのはメイクだろう。アイメイクはほとんどラインのみ。太目で目尻を強調するように長く引いてある。チークもほとんど色味が感じられない。そして一番の特徴は真っ赤なリップ。
「このメイクを施して、.futureの服を着た時点できみはEVEになる。EVEは現代のオンナの象徴だ」
「そんなにオンナを強調するんですか」
 思わず玲奈が口を出す。
「そうだ。EVEによって.futureの快適さや自由さが強調されるんだ。世間のオトコどもを存分にたぶらかしてくれ」
 悠人がいった。
「できますかね」
「がんばれ」
「あっ、わたしまだやるって決めてないですけど」
「えっ?」
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