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文字数 1,163文字
佳奈は気がついていた。玲奈の隣にすわる二人の男がずっと玲奈を気にしていることを。
先にすわっていたのは彼らのほうだ。玲奈が隣にすわったのは、単なる偶然である。話の内容が内容だけに、彼らはただ興味を持っただけだと思っていた。玲奈は彼らに背を向けていたから気づいていなかったのだが、佳奈の視界には、ちらちらと男たちが入ってくる。
もし弱みにつけ込むようにへたに声をかけてきたら、即刻店を出ようと思っていたのだ。
だが、男の話は想像を超えていた。
だいたい玲奈は学生時代から無頓着すぎる。自分の魅力を分かっていない。だから制御もできていない。使い分けれない。自分がいっしょにいたときは、寄ってくる男をしっかりと検分して見合わない男は追いはらってきたのだ。
それがちょっと離れ離れになり、しっかりしなよとさんざんいってきたのに、あんなゲス野郎にひっかかってこのざまだ。
男は玲奈にむかって手を差し出した。
「ちょっと立ってみて」
玲奈はバカ正直にその手をとって椅子からおりる。男は玲奈をぐいっとひきよせて腰を抱きよせた。
「うぇっ?」
思わずおかしな声が出た。佳奈も思わず腰を浮かす。
「どう?」
男は連れの男に問いかけた。
「うん、いいんじゃない」
「な、なに?」
男はパッと玲奈をはなすと
「あ、ごめん」
といった。
もう一人の男が立ちあがって、名刺を出した。
「.futureの社長の菅原涼太郎です。こっちはデザイナーの森悠人。よろしく」
涼太郎が二人分の名刺を差し出した。受け取って、佳奈は用心深く名刺と二人の男を見比べた。涼太郎は悠人よりもさらに背が高く、モデルができそうなくらい見栄えがよろしい。
「メンズのモデルは俺がしているからね。二人のならびを確認したかったんだよ」
悠人がいった。なるほど、と玲奈は納得した。天はこの人に二物をあたえたのか。いや、この人は三物も四物も持ってそうだ。だが、自分はこの人に見合う人間だろうか。
あらためてすわり直し、涼太郎が説明を始めた。
.futureは立ち上げて四年目の新しいブランドで、涼太郎を含め三人でまわしている小さな会社だ。オンラインショップをメインに、都内で五店、ほかに全国で五店、セレクトショップで取り扱ってもらっている。
いろいろな撮影用の貸し出しもまあまあ需要がある。人気はある。あるにはあるのだが、最近少し伸び悩んでいる。オンラインショップの売り上げが芳しくない。
「新進気鋭なのに?」
玲奈が口をはさんだ。悠人が少しむっとした。
「ちょっと見て」
そういって涼太郎は.futureのホームページを開くと、ゆっくりスクロールしていく。