精霊王ノ瞳~Ⅴ

文字数 7,171文字

 
 
 
陰様(かげさま)で。
今日(こんにち)(いた)るまで、クロイツのイライラとお付き合いする事になりましたが。
どう落とし前つけてくれるんですかね。

とは言え。こうなったからには、やるしかないので。
いずれは増々請求(ましましせいきゅう)する気、満々(まんまん)

クロイツをはじめ、(いき)り立つ。
一同(いちどう)士気(しき)は高い。

すると、フェレンスもまた。
クロイツの言葉に(おう)じるため、羽織り(ストール)()(まと)った。

目指(めざ)すはアイゼリアの首都、イシュタット中心部。

城下(じょうか)支柱(しちゅう)破壊(はかい)した外敵(がいてき)の、
目的(もくてき)正体(しょうたい)()き止めなければ。

ところが飛び立つ気配(けはい)(うかが)うカーツェルが、(さき)(ゆず)ろうとしない。
後ろから手を取り、残れと言っても聞く素振(そぶ)りさえ見せなかった。

(あん)(じょう)

分かりきっていたはずなのに。
どうする事も出来ないのか。

悲痛概念(ひつうがいねん)の何たるかを知る思いがする。

(やる)瀬無(せな)く、(にぎ)った手を強く引くフェレンスは(さら)に。
()()きかけた彼の(ほほ)に手を()え、言い聞かせた。

Miuwaits La Rourica(ミュウェイス ラ ルーリカ) ...
 Fileique(フイル イーク) Auver Riu Lederdia(オーヴェル リウ レダーデャ) ... ... 」

 私の愛しい人 ... 今度こそ、言うことを聞いてくれ ... ...

聞いたことのない言葉である。
(おそ)らくは、故国シャンテに(つた)わる古代言語(こだいげんご)だろう。

という事は、グウィンに(たい)し言っている ... ... ?

一部、吹き飛んだ(かべ)(かげ)に身を(かく)し。
やり()ごすしかなかったエルジオの(うで)の中で、チェシャは思う。

真相(しんそう)は不明だが。

自失(じしつ)しているはずのカーツェルが悲しげに(うつむ)いたのは、きっと、そのせい。
心臓が鼓動(こどう)する(ごと)に。
彼の視界は二重(にじゅう)にも三重(さんじゅう)にも散乱(さんらん)した。

(つづ)いて。

潜在意識(せんざいいしき)()る記憶を(むす)びつけたのは。
その時、彼が(いだ)いた悲痛(ひつう)(もと)づく。

狂気(きょうき)

古家周辺(こやしゅうへん)(きり)()れたのは何故(なぜ)だろう。
()ても立ってもいられず。
エルジオの(うで)から()け出たチェシャは二人を呼んだ。

「 シャ、マ !! ツェ、ル!!」

生憎(あいにく)にも。
ここに起きた事変(じへん)異変(いへん)(こと)なるよう。

幼子(おさなご)の声を耳にし、カーツェルの注意が(わず)かに()れたのを()に。
黒き羽衣(はごろも)(ひるがえ)し、フェレンスは飛び()る。

咄嗟(とっさ)の事。

その後ろ姿を目で追って(にら)む彼の目は、冥府ノ焔(めいふのほのお)とせめぎ合う金剛ノ聖火(こんごうのせいか)宿(やど)した。
聞こえてくる内なる声は、真新(まあたら)しい記憶すら()ぎ落としていく。


『ずっと ... こうして()らしていきたい ... ... 』

(うそ)だ〉

『つまり私は、お前の気持ちに(こた)えたい ... ... 』

〈嘘だ〉


先の会話を、二人の言葉を否定(ひてい)するのは誰だ。


『俺は、フェレンスに受け入れられたい一心で ... ... 』

〈本当に、そんな事を(のぞ)んでいるのか?〉


答えが見つからない。
何より(うたが)わしきは、己自身(おのれじしん)であって。
絶望感(ぜつぼうかん)(おそ)われる。


〈ならばいっそ、(おの)が心ごと()(くだ)け ... ...

 あの御方(おかた)を行かせてはならない。
 ()しければ力づく、手に入れろ。

 そうだ。()(わた)すんだ。

 まずは手始(てはじ)めに、その身体(からだ)を ... ... 〉


潜在意識(せんざいいしき)(ふち)(かろ)うじて、ぶら下がる。
彼の意識を(すく)い上げ、飲み込もうとしているのは誰だ。


()いでクロイツが感じ取ったのは。
カーツェルに見合わぬ別格(べっかく)威風(いふう)

「下がっていろ!! チェシャ!!」

距離(きょり)が距離だ。
流石(さすが)に声は(とど)かない。

クロイツに()わりエルジオが()()って事無(ことな)きを()たが。
二の足を()む。

あれは、本当にカーツェルなのか ... ... ?

〈 ザク ッ ... ザザザッ ... 〉

(あつ)みを()した(しも)()()()(たけ)る。
彼の咆哮(ほうこう)を聞いた者は(みな)恐怖(きょうふ)に打ち(ふる)えたという。

〈 オォオォォ ォォォ ... ゛!! アァ ァァァ ッ ... ゛!!〉

ノシュウェルもまた、圧倒(あっとう)された者の一人だ。

「あれが魔導兵 ... いや、竜騎士(りゅうきし)覇気(はき)か ... ... 」

先程(さきほど)までの冷や(あせ)が、脂汗(あぶらあせ)に変わった気がする。
(かた)や元部下の二人はどうだろう。

「わぁ、(すご)い ... ... 」
(こわ)ぁ ... ... 」

一言で言うと。
語彙力(ごいりょく)なさすぎ。

ついでに言えば。
緊張感(きんちょうかん)も無い。

この()(およ)んで何だ。
負けた気がして少し(くや)しかったりするぞと。

なので。(くる)(まぎ)れだが聞いてみた。

「なぁなぁ。お前ら、もっと他に言うことないの?」

「え。ダメですか!?」
面倒(めんど)くさい!」

いやぁ、()が元部下ながら、(たい)した(たま)してるわぁ ... ...

ノシュウェルの(あせ)も、干上(ひあが)がってしまうようだった。
ところが、そうこうしている()(そば)を飛び、行き()ぎたのはフェレンス。
その姿を見送ったのち、思わず息を殺したノシュウェルが、古家(こや)()(なお)ったところ。

重心(じゅうしん)(ふか)く ...
深く落とし込み、特攻態勢(とっこうたいせい)をとるカーツェルの気配(けはい)

「 チッ ... ... 」

クロイツは舌打(したう)ちし、呼号(こごう)する。

貴様(きさま)もか? 足手(あしで)まといになるだけの役立(やくた)たずめ。
 多方(たほう)(ひそ)策士共(さくしども)足掛(あしが)かりとなり、(つぶ)されるくらいなら、
 せめて ... 道連(みちづ)れにして()け と言うのだ!! この、(おろか)か者が!!」

連想(れんそう)されるのは、各勢力(かくせいりょく)主導者(しゅどうしゃ)密偵(みってい)謎多(なぞおお)重要(じゅうよう)人物達。

「ここで貴様(きさま)(とお)しては、帝国の高位貴族、及び上院議員(マグナート)過激派信教徒(パルチザン)の思う(つぼ)

それら(うら)で糸を引く者の不都合(ふつごう)を知らなければ、()つ手が無い。
(しか)らば、主従(しゅじゅう)動向(どうこう)制限可能(せいげんかのう)特権(とっけん)()たうえ、
各方面(かくほうめん)からの(あゆ)()りを(さそ)うのみ。

愚劣漢(ぐれつかん)意識下(いしきか)(しず)思情(しじょう)になど、興味(きょうみ)はないがな。
 何が何でも(やく)に立ってもらわねば、(わり)に合わぬのだ。
 ()してや、面倒(めんどう)を見てやるつもりも更々(さらさら)ないぞ ... ... 」

()()ぎ、()き込む逆風(ぎゃくふう)(あらが)うかのように。
()き手(がわ)中指(なかゆび)人差(ひとさ)し指を(そろ)え、
視界(しかい)斜切(はすぎ)り、()り下ろされたのはクロイツの手。

先立(さきだ)ち、寡兵(かへい)鼓舞(こぶ)(はか)るべくして。
当者(とうしゃ)は声を()った。

同志(どうし)()ぐ! 各々(おのおの)役目(やくめ)再認(さいにん)せよ!!」

(たい)()()相手(あいて)は、両腕(りょううで)蒼火(あおび)(とも)(かか)えた。
続けるクロイツの話声(わせい)は高く、(いさ)ましい。

「思い(さだ)めるのだ!!
 死にたくなければ、〈相手は人〉という先入観(せんにゅうかん)一切(いっさい)()()れ!
 進路(しんろ)(ふさ)ぎ、緩衝壁(アブソーバー)展開(てんかい)
 標的(ひょうてき)となった者は即座(そくざ)戦線(せんせん)離脱(りだつ)すること!」

()の高い集合住宅(タウンハウス)屋上(おくじょう)に立つヴォルトが、合間(あいま)補足(ほそく)した。

「クロイツの目の前より手前(てまえ)理想(りそう)だな」

()(くわ)えたのはノシュウェル。

「動きを止めるだけで()いぞ」

するとエルジオが不安(ふあん)()らす。

「いや、でも、アレ、本当に()まるんですか?」

背後(はいご)とは言え、対象(たいしょう)間近(まじか)覇気(はき)()びたのが彼とチェシャである。
無理(むり)もない。
配慮(はいりょ)一言(ひとこと)ずつ()えたのはノシュウェルの元部下、二人だった。

「止まるかもよ?」
「止めましょう!」

「止めないとねぇ」

真似(まね)て答えるノシュウェルは随分(ずいぶん)(ひか)えめ。
だが、ありったけの魔導弾(マギアブレット)(ふところ)(そな)位置(いち)に付き、(かま)(ずみ)みである。

(たん)(はっ)したのは、危難(きなん)淵源(えんげん)
黒き(りゅう)見紛(みまが)う男。

特攻(とっこう)()()地盤(じばん)なき足下(そっか)に、
次元(じげん)()らぎを()し、()()めると。
(あつ)を受けた水面(みなも)のように(ひず)む空間。

()てつく(ほのお)大気(たいき)から熱を(うば)い、
(しょう)じた旋風(せんぷう)(あお)られ(おど)り上がる刹那(せつな)に。

一室(いっしつ)諸共(もろとも)
鳴動、瓦解(めいどう がかい)する古家(こや)半面(はんめん)

来るぞ ... ... !

面々(めんめん)(そろ)って身構(みがま)えた。
向き合う相手は(ひず)みの撃発(げきはつ)を受け、爆進(ばくしん)する。

その動体(どうたい)一直線(いっちょくせん)(はな)たれた(やり)(ごと)く。
避難誘導(ひなんゆうどう)配備(はいび)された人員(じんいん)複数名(ふくすうめい)目撃(もくげき)
音速の(かべ)(やぶ)衝波(しょうは)が、大気を()るがす中。

衝撃圧(しょうげきあつ)()けじと息巻(いきま)いて。
クロイツは言い(はな)った。

「 止 め る の だ ――― !!」


(まん)()して、(いど)()かる。
面々(めんめん)にも、各自(かくじ)それなりの対抗手段(たいこうしゅだん)があった。

それと言うのも、一同の処遇(しょぐう)(まつ)わる。
数日前。話の(もと)となったのは、国家間(こっかかん)領土(りょうど)問題だ。


(もり)(ふち)程近(ほどちか)山岳(さんがく)の一部は中立地帯(ちゅうりつちたい)となっている。
アルシオン帝国とアイゼリア王国を(ふく)む、近隣複数国(きんりんふくすうこく)締結(ていけつ)した条約(じょうやく)(もと)づき。
原則(げんそく)非武装(ひぶそう)(さだ)められていたのだ。

また。当国アイゼリアと国境侵犯(こっきょうしんぱん)危惧(きぐ)する帝国との確執(かくしつ)根深(ねぶか)く。
()をかけ、異端ノ魔導師に対する隠避教唆(いんぴきょうさ)(うだが)われているのだから。
険悪(けんあく)どころの話ではないとの(はこ)びから。

実際問題(じっさいもんだい)、バレバレだよね。近隣国(きんりんこく)まで(さぐ)っちゃえば分かることなんだし」
極力(きょくりょく)(てき)にしたくないからだろうって言われてるけど。
 そうと認識(にんしき)される国家間(こっかかん)蔓延(はびこ)るのは、贈収賄(ぞうしゅうわい)だ。
 どちらも利用(りよう)されてるふりをしているだけかもしれないし。食えないな」

「アイゼリアの王党派(おうとうは)が、まさかの国賊(こくぞく) ... 帝国ノ(ワンちゃん)かー」
「それとやり合ってから帰るって、どうゆう発想なんだろう」

「え。でも、そういうの面白(おもしろ)いじゃん」
「え。ああ、まぁね。そうだけどさ」

元部下、両名(りょうめい)の会話を聞きくうち。
ノシュウェルは作業を()えた。

「さぁて。整備(せいび)()んだぞぉ。
 あとは感を取り(もど)すまで、ひたすらリハビリだなぁ」

軍手(グローブ)()ぎ、満足気(まんぞくげ)()()くと。
(とな)り合って闇雲(やみくも)な会話を続ける二人の(うし)ろを、ヴォルトが通る。

「うん。頑張(がんば)るー」
「しかし何年ぶりなんだ? まだ上手(うま)く使えるといいけど」

「それがね。フフフ。(おぼ)えてないんだー」
「わぁ。それ洒落(しゃれ)になってないよ、お(じい)ちゃん」

「フフ。ぶっ()ばされたいの? キミ。
 やっぱ、いい度胸(どきょう)してるよねー。
 僕よりだいぶ年下のくせにさー」

それは(たし)かに。そう思う。
けれど、大分(だいぶ)と言うのは具体的(ぐたいてき)に、どれくらいなのだろう。

「なぁ、お前。(とし)(いく)つなんだ」

もう一人に(たい)し、ノシュウェルが(たず)ねてみたところ。

「二十八です。ちなみに、こいつが降格(こうかく)()らたのは、自分が移動(いどう)になる十年も前で」

「は!? そんな歳で中堅(ちゅうけん)()れるくらいなのに、どうして俺のトコなんかに!?
 いや()て、それより! もう片方(かたほう)こそ、お前、(とし)(いく)つなんだ!?」

「十八歳でーす」
「言うことがもう中年以上だから、やめなって」

かえって()けて見られるぞ? と、耳打ちしているようだが、筒抜(つつぬ)け。

「よし。決めた! ぶっ()ばしてあげる!」

(むな)ぐらを(つか)まれてから平謝(ひらあやま)りしている。
そんな()り取りを余所(よそ)に。
ノシュウェルの(そば)まで来てヴォルトは思った。

帝国の遊撃部隊兵装(ゆうげきぶたいへいそう) か ... ...

先程(さきほど)まで整備(せいび)されていた(しな)である。
一部、機械仕掛(じか)けと見受(みう)け、精察(せいさつ)していると。
帝国軍小隊を(ひき)いた元隊長の声が()かる。

飛躍腿甲(ショットアップグリーブ)だ。
 装備(そうび)すると跳躍(ちょうやく)による滑空(かっくう)可能(かのう)でねぇ」

場所と使い手次第(しだい)ではあるが。
縦横無尽(じゅうおうむじん)機動力(きどうりょく)を実現するものだそう。

「しかし ... どうして、そんなもんが巡視船(じゅんしせん)なんかに()んであったんだ?」

当然(とうぜん)疑問(ぎもん)を受け硬直(こうちょく)したのは、年下の中堅(ちゅうけん)(つか)()かった(がわ)
事情(じじょう)を知る一方(いっぽう)は、すかさず居直(いなお)って()()んで行った。

「それはですね、勿論(もちろん)。誰かさんが(ふね)()っ取る時、
 どさくさに(まぎ)れて輜重兵(しちょうへい)から強奪して(ふんだくって)来たからですよ」
「もちろんって何!?」

(たい)しブツブツ言い(わけ)する(ほう)も、すっかりと開き(なお)っている。

物資(ぶっし)は多いほうが心強いとか。
やられる前にやらなきゃだとか。
悪びれた様子もなく。

「だって僕、元奇襲兵(もときしゅうへい)なんだもの。
 ()(した)しんだ補助装備(ほじょそうび)を見かけちゃったらさ、()っておきたいじゃん!」

はぁ。つまりアレか。降格(こうかく)()左遷(させん)要因(よういん)は、その手癖(てくせ)の悪さな ... ...

ヴォルトは思っても口に出さない。
ただノシュウェルを見やり、二度ほど、(かた)(たた)いた。

けれども、少しだけ()()いて。
作業台を()()き、配慮(はいりょ)したうえ(ささや)いてみたり。

「えらい部下を押し付けられたもんだな。あんたも」

それがまた。丁度(ちょうど)、向かい(がわ)に立っていたエルジオには聞こえてしまって。

〈 も 〉 ... ... !?

ちょっとショックだった模様(もよう)

クロイツは部屋の片隅(かたすみ)で見聞きしているだけだった。
とは言え、確認しておきたい事が一つだけある。

遊撃部隊(ゆうげきぶたい)と言えば、切れ者(ぞろ)いと聞いているが?
 自慢(じまん)の攻撃手数(てかず)(おぎな)包括支援設備(ほうかつしえんせつび)もないのに、どうするつもりなのだ」

横槍(よこやり)を入れてみたところ。
答えたのは、元中堅(ちゅうけん)だった。

「ああ、それなら元隊長が何とかしてくれるかなって思います」
「何、その無茶振(むちゃぶ)り」

ノシュウェルは一瞬、戸惑(とまど)った様子。
だが、何故(なぜ)満更(まんざら)でも無さそう。

貴様(きさま)出来(でき)るのか? 元の所属(しょぞく)を言え」

(たず)ねると。

「ええ、そうですね。昔は兵器開発をしてたもんで。
 出来なくはないですなぁ ... もっぱら作り込む(ほう)でしたし」

クロイツも目を見開く意外(いがい)な返答。
どこからか ガタガタ ... と、(せき)を立つ音まで聞こえてきた。

あんたが兵器開発 ... ... !?

とても信じられない。
ヴォルトとエルジオは見合わせて思う。

中堅(ちゅうけん)は知っていたという事か。

その場に居合(いあ)わせた諜報員(ちょうほういん)の心の中では、最早(もはや)逸材(いつざい)
注目の人物は(くわ)えて言った。

「あ! でも、クロイツさん ... それ以上は聞かないであげて下さい。
 つまり、この人 ... 規格外(きかくがい)改造品(かいぞうひん)ばっか作って、あなたの(もと)へ飛ばされたんですよ」

「やーん。言ってる! 聞かれる前に! どういうコト!?」

「 ... ... 」

元兵器開発技師(ぎし)や元奇襲兵(きしゅうへい)(たい)(おく)さぬどころか、クロイツまで(だま)らせるとは。
軍歴(ぐんれき)が気になる。

話は続いた。

「あと、自分。(かく)言う包括支援(ほうかつしえん)担当(たんとう)した元輜重兵(しちょうへい)なので、
 系統設備(システムファシリティー)が無くても最低限(さいていげん)装置(そうち)さえあれば、機動支援(モビリティーサポート)くらいは出来ます。
 とりあえず、手動伝送(しゅどうでんそう)とか、装填補助程度(そうてんほじょ ていど)なら ... そうだ、
 巡視船(じゅんしせん)主配電盤(M D F)を組み(なお)せば使えるんじゃないかな」 ※MDF=メイン ディストリビューション フレーム

粗方(あらかた)前知(ぜんち)し言い(ふく)めているのだ。
これにはクロイツも相好(そうごう)(くず)す。

また、(くず)れると言えば。
ノシュウェルの人物像(じんぶつぞう)(あぶ)ない。

「 ハァ ... ハァ ... つまり、何だ。
 それってのは ... 巡視船(じゅんしせん)、バラして良いってコトだな ... ... ?」

技術者(エンジニア)(さが)である。
思わず声を()けたのはエルジオとヴォルトだった。

「え ... っ と ... ノシュウェルさん?」
「あんた、そういうキャラだった?」

「 ククク ... 残ったのは爪弾(つまはじ)きにされた奇人(きじん)のみと言うわけか。
 貴様(きさま)は人を(なじ)れる立場ではないな」

(とど)めを刺したのはクロイツ ... かと思いきや。

「「「あなたが言う!?」」」

等々(などなど)。口を(そろ)えたクロイツ以外の面々(めんめん)だったりして。
()られたくない。(なぐ)られたくない。けれど。

類友(るいとも)って言うじゃんねー」
「うん。自分達なんか()()せられた(がわ)端役(モブ)ですし。
 まともな(へい)は、あなたと(のこ)るなんて破滅的選択(はめつてきせんたく)なんかしませんよ。クロイツさん」

「おおおぉぉぉぉぉぉ ... ... 言うねぇぇぇぇ ... ... 」

飄々(ひょうひょう)とし言ってのける元部下、二人に()られてしまったがために。
この(あと)()り飛ばされたのは言うまでもなく。
彼、ノシュウェルだった。


アイゼリアの軍勢(ぐんぜい)(おも)に、爆撃(ばくげき)を受けた方面(ほうめん)へと派出(はしゅつ)されたよう。
手筈(てはず)(ととの)えたのは、国王、(なら)びに王党派(おうとうは)見張(みは)王太子(おうたいし)ウルクアである。


弱ったカーツェルをどうしたいのか、何をさせたいのか。
敵勢力(てきせいりょく)(ねら)いは(あき)らかになっていない。
(とど)めるに(いた)らなければ、どうなってしまうのだろう。

彼は何故(なぜ)利用(りよう)され続けるのか。
彼は何故(なぜ)、命を()け引きされてまで、
フェレンスの(そば)居続(いつづ)けることに執着(しゅうちゃく)するのか。

回想(かいそう)(まじ)え、(かぎ)(にぎ)る男について考察(こうさつ)するクロイツは、(あらた)め立ち(ひか)える。
その手は、長い前髪(まえがみ)(かく)された(ひとみ)の上に()えられ。
ノシュウェルを(ふく)同志(どうし)責務(せきむ)()たす、その時を()った。

初手(しょて)(もち)いられたのは捕縛弾(ほばくだん)

(はな)たれた榴弾(りゅうだん)は対象の撃破(げきは)を目的としない。
兵装(へいそう)作動停止(さどうていし)、もしくは爆発物の破片(はへん)弾子(だんし)飛散(ひさん)(さまた)げ、火力を低下させる物だ。

生活圏(せいかつけん)への侵攻(しんこう)()けた場合に、
人命(じんめい)設備被害(せつびひがい)(おさ)えるは準則(じゅんそく)

まさか対魔物(たいキメラ)重火器(じゅうかき)を人に使うなんて、思ってもみなかったが。

射手(しゃしゅ)の一人は、直後(ちょくご)に思い知る。
クロイツが常々(つねづね)口にしていた言葉の意味を。

相手(あいて)は人の姿(すがた)をしているに()ぎない。
魔物(キメラ)同然(どうぜん)なのだと。

極低温下(きょくていおんか)にあっては、原子(げんし)の熱運動すら収束(しゅうしそく)してしまうのに。
冥府ノ焔(めいふのひ)()れた同弾(どうだん)が、いつもと変わりなく機能(きのう)するわけがなかった。

彼ノ魔導兵(かのまどうへい)が目標点に(せま)り、()りかぶる。

〈 ガァアァァ――ン!! ガガァアァァ――ン!!

胴板(どうばん)をへし()豪打(ごうだ)
次々(つぎつぎ)(たた)き落されていく弾骸(だんがい)

宅地(たくち)守備(しゅび)に当てられた人員は、未然(みぜん)展開(てんかい)した法壁(ほうへき)の中。
(はじ)かれたそれらが熱劣化(ねつれっか)し、()(くず)れていくのを見た。

ある者は気取(けど)られ、狙撃眼鏡越(スコープ ご)しに目が合う。
(こお)るようでありながら、(いかり)りに()ちた睨視(げいし)を受け。
脳裏(のうり)(よぎ)るは、死の一文字(ひともじ)

それでも役目(やくめ)()たさねば。
追い打ちをかけるしかないのだ。

無腰(むごし)の相手は(いま)無傷(むきず)である。
ともあれ、特攻(とっこう)(ふせぎ)(とど)めた。

()いては追進(ついしん)阻止(そし)せねばならない。

向き合う集合住宅の外面壁(がいめんへき)交互(こうご)()()がり、塔屋(とうや)()()え。
展望前(てんぼう)へと一直線(いっちょくせん)飛昇(ひしょう)したのは、再起(さいき)したての奇襲兵(きしゅうへい)だった。

「行くよ ... ... (はち)()にしてやるつもりで!」

無我(むが)(にお)わせ、悠々(ゆうゆう)と見上げてくる相手は最早(もはや)別人(べつじん)見受(みう)ける。
(たい)(ねら)いを(さだ)め、斜角回転降下(しゃかくかいてんこうか)
()り出された第一撃(だいいちげき)は、回転速付加で威力(いりょく)()した手盾殴打(シールドバッシュ)

相手は軽々(かるがる)と受け止めた。

無論(むろん)()てつく(ほのお)を前に保護(ウォード)持続(じぞく)期待(きたい)できない。
即座に(うし)遠方(えんぽう)まで()び、距離(きょり)を取ったところ。

〈うん。でも、ぎっくり(ごし)には気を付けるんだぞ?〉
(うっっさ)いなぁ!!」

()を見て受信装置(レシーバー)()しに言葉を()わす、ノシュウェルの元部下。両兵(りょうへい)

「て言うかさ! ルース!! キミこそ!
 砲弾(シェル)充填(じゅうてん)ミスって弾切(たまぎ)れさせたら(ゆる)さないから!!」

一人は、各個撃破ノ精鋭(かっこげきはのせいえい)。元帝国軍遊撃部隊、奇襲兵(ゆうげきぶたい きしゅうへい)

了解(りょうかい)。でも ... アルウィ、お前だって。
 俺を退屈(たいくつ)させたら、二度と()まないからな。忘れるなよ?」

また一人は、同国軍輜重部隊(しちょうぶたい)機動支援特化、特殊技能兵(きどうしえんとっか とくしゅぎのうへい)

()り取りを聞く誰もが思った事だろう。

あの二人、名前あったんだ ... ... !?

内、一人はノシュウェルだが。
彼は思う。
無いわけは無いとして。

今の今まで忘れてたなんて、言えない ... ... !!

(かり)にも元隊長なのに、聞くにも聞けず。
よくもまあ、二人称代名詞(ににんしょうだいめいし)だけで()りきったなと。
(われ)ながら関心(かんしん)してしまう。

(かた)やクロイツは目を()じ。
強く()き込んだ風に乗る音に、耳を(かたむ)けた。
 
 
 
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登場人物紹介

◆フェレンス・クラウゼヴィッツ・ウェルトリッヒ


故国・シャンテの生き残り。

《千ノ影》を宿す男。


錬金術、魔術、魂魄召喚、禁呪とされる魔導兵召喚術を扱う。


戦犯として裁かれるも、失われし禁断ノ翠玉碑(エメラルド・タブレット)のありかを突き止める事を条件に恩赦を受けた帝国魔導師。

アルシオン帝国軍管轄下、高等錬金術師団所属。特務士官。


訳あって薄情者と言われがち。感情に乏しい。自覚はしている。

交友関係にある者への誹謗中傷だけは論外。そうと知れば制裁を躊躇わない。


◆カーツェル・D・アード・ランゼルク


アルシオン帝国、公爵家子息(次男)。


幼きに母失踪。父、ハインリッツェ・A・ヴァート・ランゼルクは帝国軍大佐で婿養子。宗家、家長は存命していた祖父。そのために身内の権力闘争を見聞きし育ち、一族を嫌悪するようになった。


父を尊敬し、文武とも好成績。だが言行は粗暴で捻くれ者。しばしば父と作戦を共にしていた異端ノ魔導師に漢惚れし、『いつかは部下にしてやる』などと言って付きまとう。散々無視されるも諦めなかった。フェレンスの悪口等耳にすると黙ってはいられない。喧嘩の売り買い過剰で問題児リスト入り。


士官学校卒。


彼には救いたい人がいる。フェレンスが蔑まされながら孤独に生きる姿を見るのも嫌。しかし傍にいれば陰謀に巻き込まれ命が危うい。フェレンスに避けられ続けた彼が思い至った解決法は... 彼と禁断ノ契約を交わし、絶対服従の《魔導兵》となる事。


◆チェシャ


フェレンスとカーツェルの前に突如として現れた謎の少年。


訳あって上手く会話する事が出来ない。舌っ足らずの片言。


血に驚異的魔力を宿す。その等級は二等:紅玉(ルベウス)、もしくはそれ以上。

フェレンスの魔ノ香(マノカ)に惹かれ懐いた。


魔ノ香とは。特異血種とみなされた者の血に宿る魔力と、それに伴う瘴気の醸す香り。

魔物(キメラ)や、等しい存在にしか認識できないはずのもの。


◆クロイツ


軍警を主体とする治安維持機構所属の監視官。


要監視対象として挙がる人物を見張る。

担当は異端ノ魔導師、フェレンス 。


高圧的で気難しい性格をしているが、子供好き。策略家。


◆アレセル


クロイツの実弟。だが腹違い。

実母は娼婦で霧ノ病を発症し討伐された。

義母を尊敬し、子として愛し愛されたが、またしても霧ノ病で失う。


人の心を失いかけた当時、闇魔術に手を染めるもフェレンスと出会い更生。

以来、彼の愛はフェレンスに向く。人脈の形成、諜報力に秀でる。

◆翠玉碑 (エメラルド・タブレット)

故国・シャンテの中枢に収められていた叡智ノ結晶。

彼ノ戦により砕かれ、その多くが行方不明。

◆千ノ影

彼ノ戦の犠牲者。シャンテの民の霊。

一部はフェレンスの扱う魂魄召喚にて戦闘可能。

筆頭は亡国ノ英雄。黒ノ竜騎士・グウィン。

◆霧ノ病

心身が麻痺していく病。
発症し悪化すると身動きもせず、飲食すらしなくなり衰弱。


あらゆる想いの境地に至る人の心に穴を開け、冥府ノ霧を呼び込む。

冥府ノ霧とは、悲しみ、怒り、妬み等、人を惑わす負ノ思念。


霧は欲を喰らい、無我ノ境地へ誘われた者は無垢なる狂気を発症。

やがて魔物(キメラ)化する。

◆複合錬金

特殊錬金、キメラ錬金とも呼ばれる。

由来が異なる複数のエリクシールを掛け合わせる法。
それによって生じた存在は安定化させる事が難しく、禁じられている。

◆魔導兵

神々ノ器とも呼ばれる。

亡国ノ魔導師と禁断ノ契約を結んだ下僕。


複合錬金により身体を強化。

覚醒→魔人化→神化。

三段階の変身が可能。

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