魔ノ香~Ⅸ
文字数 9,783文字
駈歩で高原を行く多頭引き馬車。
揺れをなぞらう身の側面。
明り取りから差し込む西日が、床から壁へと昇っていく間。
茅色に染まる搭乗室内に染みた硝煙と、
座席下の物資箱から漂う火薬の匂いが喉に絡むたび、小刻みに咳で払いつつ。
ノシュウェルは、遮光シートで閉ざされた車窓を背に沈黙する兵士等と並び、
最奥で向かい合うかたちで静かに会話する上官と、魔導師の声に耳を傾けていた。
ふっくらとしたトラウザの撓みを除け、脚を組み、腕を組み。クロイツは言う。
「定期に国内各所を訪れる国勢調査員が、
民の出生と死没を記録していく過程で、新生児の血の魔力の有無も調べるはずだが。
免れたところで、検問所の往来に必須である履歴審査を ...
この少年は、一体どのようにして切り抜けてきたと言うのだ ... ... 」
出発前に少年の手足、そして体型を確認してみたが。
暴力被害に遭った痕跡は無く。
取り立て痩せ細っているわけでもない。
性格だって、擦れてもなく至って素直。
警戒心さえ然程、強くはないようだった。
となると ... 悪徳に取引される手前、逃げ出してきた可能性が高いわけだが。
命を軽んじる者の少なくない裏業界から、このような幼子が逃げ遂せるものかどうか。
実の経緯を尋ねようにも、少年は言葉を知らなすぎるので推し量るより他ない。
可能であるとするなら ... ...
彼の傍には常に、一般の保護者とはかけ離れて裏状勢に詳しい何者かが付き添っていたものと思われる。
そうでもなければ、奇跡。
考えを巡らせるクロイツの眼差しが、深々と床に突き刺さっていくようだった。
放っておいたら、そのうち煙が立って床に穴が空くのでは。
そう思った一人の兵士は、床とクロイツを交互に眺める。
片や、その他数名は、それよりも気になる光景に視線が釘付け。
クロイツに対するフェレンスの応答を聞きながらだった。
凝視する、彼等共々。
ノシュウェルもまた、同視点で声の主の手元を見つめる。
「いずれにせよ、彼の血筋を洗い出すのは略不可能だろう。
これ程の逸材を何年もの間、他者に気付かれぬよう隠し覆すなど ...
一般の民に出来ることではないのだから」
逞しいでもない。だが、細くもない。
節の目立たぬ滑らかな指の線を影が強調していた。
会話に集中するつもりが、どうしても〈そこ〉に目が行くのだ。
艶やかな爪の先で、足元に寄り添い眠る男の黒髪を梳いては撫で。
繰り返し ... ...
時として強い揺れを抑えてやっている彼の魔導師の動作に。
冥府の炎を封じられた付き人は今、主人の法により眠らされている。
瘴気を解く薬を作ってやれる状況でもないために、とにかく時間を置く必要があるのだとか。
初め、搭乗室に寝かせられた彼は悪感に魘されていたが。
それを見かねたフェレンスが抱き起こしてやったところ、ピタリと寝静まったのだから ...
搭乗者一同、神妙な心持ちがした。
見ていると、フェレンスの膝に頭を乗せるカーツェルが、
毛布越し、腹部に顔を埋め深く息を吸う。
そんな彼の寝心地や、如何なるものかと。
想像する者は少なくなさそうだが。
何故か、気不味い空気だ。
余所見をすれば隣と目が合う。
別に。羨ましくなんかないけど。
俺も一度は、あんなふうに撫でられてみたいなぁ ... ....
なんて。複雑な心境を自覚するなり気分が鬱ぐのは、お決まりってやつだろうか。
部下達の様子を窺っていると、考えていることが表情に出ていて面白い。
だが、笑ってはいけない。ノシュウェルは堪えた。
彼等は口々に言う。
「早く帰りたいね ... ... 」
「だな ... ... 」
「つか、さ、仲の良い友人同士を見てるだけなはずなんだが」
「うん。分かるわ。どうしてか、こう ...
帰ったら本気で恋人作ろう ... とか、惨めなこと考えちゃうよね」
「それな ... マジそれ ... 」
聞こえていてもおかしくないが。
方々は無反応。
ゆっくりとカーツェルの髪を梳くフェレンスの指先は、
まるで ... 愛しい人の柔肌に触れるかのようだった。
そんな中。
上官と魔導師の会話を邪魔せぬよう膝の上に確保した赤毛の仔猫ちゃんが、
ぷっくりと両頬を膨らませて、不機嫌そうに唸る。
「 ... ンムゥ ... 」
些か扱いに悩みつつも、ノシュウェルは言った。
「俺なんかの膝で不満だろうけどな。そこを何とか、もう少し ... 我慢してくれよ」
少年のご機嫌取りに尽力せよとの任務を遂行中。
クロイツをチラ見しても放置されっぱなしで。
少年がグズりそうになるたび、一緒に泣きたくなったものだが。
そうこうしているうち気付いた点もある。
兵士等の会話が気になるのか、少年は時折
憂鬱そうに項垂れる男達を流し見て、ぷくぷくと頬を張ったり緩めたり。
反復して気を紛らわせているように思われた。
そもそも理解出来ているのかどうか疑問ではあるが。
何かにつけて反応する様子を見て、もしやと考えはじめたところ。
「ただの発達障害ではなさそうだ。
大まかな言語の聞き取りと理解は出来ているにも関わらず、
自らの気持ちを表す言葉の選定だけ上手く行かないため、片言になるのだろう」
いつの間にやら少年の様子を窺っていたらしいクロイツが、
ノシュウェルの表情を読み取って答えた。
加えてフェレンスが捕捉する。
「血に宿る魔力と瘴気の自身への影響は少なからず。
発育や精神状態に支障をきたす例は、珍しくないので ... 」
隣の上役から、その真向かいへ。
視点を移し頷いて返したのはノシュウェルだった。
「なるほど。初耳ですが、そういう事でしたか」
すると、自分のことを話していると気付いた少年が真後の部隊長を振り向き、
何を思ったか、膨らませていたほっぺたを シュッ ... と窄めて見せる。
機嫌が良くなったわけでは断じて無いが。
例によって、 (`・ω・´)キリリ とした顔で良い子にしてるよアピール。
その後も、フェレンスとクロイツのやり取りは延々と続き。
ノシュウェルと膝の上の少年をはじめ、
兵士の何人かは、手摺りに寄り掛かる等して身体を休ませていたが。
フェレンスのように瞼を閉じ、目を休ませるでもなく。
ギラギラとした眼差しでクロイツは語った。
「何はともあれ、アレセルの側を含む帝都の同胞と協議せぬまま、踏み込むことは出来ん。
動けぬ間は、せめて情報の整理をしておきたいが ... ...
少年に対する我々の格別な興味など、特にも知られては困る。
血の判定が可能な調査員や錬金術師と引き合わせるわけにも行かぬのだ」
前置きするのには理由があるようだが。
「しかし、フェレンス ... ... 貴様だって曲がりなりにも
高等錬金術師団所属の帝国魔導師なのだ。
独自に判定を行うことくらい容易かろう ... ?」
尋ね方が、どこか白々しい。
「次に通過予定の宿場町で宿を取ってやる。
機材を広げられるだけの環境でさえあれば可能だな?」
丸い明り取りから降る差し日が、赤みを増し。
壁面を上って天井に差し掛かる頃合い。
手脚を組んだ姿で見据えてくるクロイツに対し、
瞼を開き視線を持ち上げるフェレンスの瞳は虚ろ。
「少年の血に宿る魔力が如何程のものであろうと、興味など無いが... ... 」
無関心を表す彼の面持ちは、実に冷やか。
だが、クロイツは引かなかった。
「アレセルの方は私達の狙いとは異なり、奴等の動向にはまだ疎い。
貴様が協力しなければ、少年の問題性が伝わらず手打ちが遅れかねん」
フェレンスは、従わざるを得ない。
そうと分かっているからこその余裕である。
「親しい人に危険が及ぶことだけは避けたい ... ... 」
すぐには答えられず。
彼は、喉から絞り出すようにして発した。
「 ... ... ... 分かった。協力しよう」
多頭引き馬車はやがて、山脈の彼方へと没する日に別れを告げ、高原を下る。
カーツェルが気付いた頃には夜更け。
宿場町にて宿を取った一行が、食事を済ませ会話しながら自室に戻る足音で、彼は目覚めた。
少しの間 ... ぼやける視界。
大きめのランタンが置かれたテーブルを中央にして、
一方の椅子には少年。また一方には自身の主。
彼らを囲い設置された細身の燐青銅機器と、
椅子に深く腰を据え脚を交差し、末端を組み立てるフェレンスとを眺めながら。
カーツェルは察する。
ところが身体を起こした途端。
前頭を貫く頭痛と強烈な吐き気を自覚し、胸元を抑えてシャツを握り込んだ。
「 ... ぅ! ... ... 」
漏れる呻きを聞いて、フェレンスは言う。
「点滴だけで、しばらく食していないのだから ... どうせ何も出ないだろうが。
口に上がってきたら器に吐き出すといい。ソファーの下に置いた。お前のすぐ手元にある。
それが嫌なら、横になって大人しくしていることだ」
作業中ゆえ、手元を見る視線だけは固定し水受けの位置を伝える。
すると、言われた傍から鳩尾が波打って胃がひっくり返りそうになったので。
返事もせずに態勢を戻し、口元を手で覆った。
「 ムグ... ムグ ンム、ンン、ンム、ンムム ... 」
それでも何か言いたいようで、言葉にならない声を発しているが ... とても聴き取れない。
様子を見聞きしていた少年が、椅子を ピョンッ と跳下りて駆け寄ったところ。
フェレンスの通訳が入った。
「 ... 〈いつかの二日酔いより酷ぇ... 〉 と、言いたいようだ」
ぇ 、今ので分かったの ?
目を丸めてフェレンスを振り向いた少年は、そう言いたげな顔をしている。
「 イ、ツカ?」
端的に尋ねると、複数の部品を手に取り、手早く組み上げつつ答えるフェレンス。
「士官学校、卒業の日。多くは同時に成人を迎える。羽目を外して飲み過ぎたらしいな。
遠征の任を終え、帝都収容先の修道院に居た私のもとへ
夜、夜中、転がり込んだあと意識を失って。更に ... 丸一日、寝込んだ事があった」
それほど昔の話ではない。
明け方に手配された迎えの馬車にも乗り込めず、吐き気を催すなり
肩を貸す使用人の腕を振り払って引き返し、嘔吐く。
当時のカーツェルの青褪めようが目に浮かんだ。
見ていると、フェレンスの口元が僅かに緩む。
その時、少年は、はたとしてカーツェルの方を見た。
すると、思った通り。
笑ってんじゃねーよ ... ... とでも言いたげにフェレンスを睨むカーツェル。
だが、そう言えば ... あの時も。
悪酔いし当て付けを言って絡んだ挙句、揉み合いになったのだ。
思い返し、カーツェルは向き直る。
フェレンスは ... 気にしてなどいないようだが。
天井を見つめ、何気なしに尋ねてみた。
「なぁ、お前。 怪我はねーのかよ」
「無いな。 何故そんな事を?」
「お前の ... 血の味がする ... ... 」
唇の端を舌の先で舐め、再確認した。
忘れもしない魔ノ香 ... ...
『てめー ... いい加減に腹を括れっつってんだよ!』
『禁呪のなんたるかを知ってもなお、それを言うのか。呆れた奴だ ... 』
彷彿として蘇る記憶。
霧ノ病の発生に伴い拡大する被害と混乱は、悪行に手を染める輩の横行にも比例し。
世の中は荒む一方。
士官学校を卒業したところで、何が出来る。
軍人として関わるだけでは力不足なのでは。
常々、思い悩んでいたのだ。
対してフェレンスは、力に執着する彼に言い聞かせてきた。
秀でた力は関わった者の命運をも左右し。
時には悪意を植え付け、か弱き者を犠牲にする。
『十の内、一つの幸を齎しめるに対し、九つの不幸を招く法。
〈制約の翠玉碑〉に禁忌として記される由縁だと、そう教えたはずだ』
ところが、カーツェルの考えはフェレンスの憂慮を打ち払った。
『世界中で魔物が増殖してるって時に、何言ってんだ。
一人を守るのに何十人、何百人と死ぬことだってある! 実際に見てきてんだろ!?
結局、何も残らないなんてコトも ... ざらだったはずだ! なのに、まさか、お前 ...
不幸を負う羽目になるヤツらと俺と、天秤にかけて考えてんじゃねーだろうな?』
別に、否定する気は無い。
むしろ、その通りだが何か不都合でもあるのかと、尋ね返してやりたかった。
けれども意味深な含み笑いを見ながら、次の出方を待って一旦は心に留めておく。
修道院、敷地の一角に設けられた ... 古い公舎の隅の塔。
伝染病や精神病を患った者の隔離施設の一つ。
それが、フェレンスに与えられた部屋だった。
一歩、詰め寄ると。
彼は一歩、引き下がる。
距離を置こうとする相手を、岩積みの壁面がむき出しになった、その傍まで追いやってでも。
言わねばならぬ。カーツェルは向き合った友人に対し、続けて、こう問い掛けた。
『なぁ、フェレンス ... 九つの不幸を恐れて、一つの幸も齎せなかったとしたら、どうなんだ。
何も残らなくても良い? そんな世界でも、都合よく ... ... 俺は存在してるのか?』
感情の薄かったフェレンスの心身に衝撃を与える言葉だった。
遥か地平線まで、白く凍てついた世界に唯一人。
とり残される光景が、フッ... と脳裏に浮かんで消える。
そもそも、正気を失った〈あの人〉の言う修正後の世界に、まさか自分が存在するとは思えないが。
何れにせよ、幸福など見い出せるはずもない。
カーツェルは懐から短剣を抜き出し、
壁に当てた自らの指の間に突き刺して続けざまに囁いた。
『俺ならとっくに覚悟は出来てんだ。何なら、今、証明してやろうか?』
刃を徐々に倒し、指の皮膚を僅かに切り込むと。
一筋の血が流れ、床に落ちる。
それを見て、初めて思い改めたと言って良い。
『分かった ... ... 』
壁に接するカーツェルの手の上を指先で准え。
掌で覆い。彼は囁き返す。
『やって見せろ ... ... 』
意表を突く言葉だった。
自らの手と重なり合うフェレンスの手。
見ると、身体が小刻みに震えだす。
手元から視線を逸し向き直れば。
ランタンの明かりを稍々下から受け、鋭く見据えてくる蒼ノ瞳。
刃を倒せば二人分の指が失われる。
まだ短かった黒髪の襟足に対の手を滑り込ませ、首筋を撫でながら。
フェレンスは更に、こう述べた。
『魔導兵としての契約を交わす ... それはつまり、これと同じことを意味する。
いいか。まだ猶予はある。今一度、考えてみることだ。
剣を折られた時、実際に砕けるのは、お前の右腕と私の精神。
お前が命を落とせば、私の自我も崩壊するだろう。
それでもと言うなら、後日、新月の夜に ... ... 改めて来なさい ... ... 』
硬直しきった手から短剣を抜き取ると、自身の指先を切り付け血を流す。
フェレンスの手が唇に触れ、口の中へ強引に指を差し込まれたところまでは覚えているが。
それ以外に記憶している事と言えば、その時、舌の上に乗せられた血の香りだけ。
魔ノ香に酔い、意識を失ってしまったのだ。
明朝に至り目が覚めるまでの記憶が一切、無いので言い切れないけれども。
症状は同じ。
あの時は、酒と魔ノ香の酔いに打ちのめされ、酷い寝覚めを経験したが。
今回なんかは自覚するなり酔がぶり返して視界が回りだすのだから、かつての比にならない。
カーツェルは昨日を思い返し、尋ねた。
「あれはやっぱり、こいつの血が原因だったのか?」
ようやっとの一言。
言い切ったところで再び吐き気に襲われ、ソファーの背に向かい蹲る。
それを見ていた少年は、肘置き側から回り込んで背を撫ではじめた。
「ツェ 、ル 、 ... ヨシ、ヨーシ ... 」 (´・ω・)ノ゛ナデナデ
もう、これ以上喋ると、本当に胃が引っ繰り返りそうな気がしたので。
カーツェルは黙って少年のふわふわな赤髪に手を伸ばし。
モシャモシャ と撫でくり回すかたちで、感謝を伝える。
カチャ ... ...
コツリ ... ...
カラカラカラ ... ...
その間も機器の組み立てを続けていたフェレンスの手元から、
どこか聴き心地の良い ... 低めの金属音がしていて。
少年は時に、猫が目を細めるかのような表情を上に向け、耳を澄ませた。
すると、また幾つかの器具、部品を取り付け順にテーブルに並べ終えたところで、フェレンスが答える。
「 ... その通りだ」
第四等・柘榴石
第三等・薔薇輝石
第二等・尖晶石
第一等・紅玉 (ルビー)
特等級・熾金剛石 (レッドダイヤモンド)
「私の血を〈尖晶石〉に位置付けたなら、少年の血は〈紅玉〉を上回る」
「だろうな ... 鼻先に感じ取っただけで意識がぶっ飛んだんだ。
契約前の生身だったとは言え、お前の血を一滴、口にした時とは比べ物になんねーよ。
... ... ウプ... ゥゥ ... ォェ... 」
「無理をするんじゃない。 薬を作ってやろうにも
必要な霊草の幾つかが在庫切れだとリリィが言っていて、すぐには無理なんだ」
「 ... ウム、ムム ... !!」
「ツェ、ル、ナニ ? 」
「 ...〈分かってる〉だ、そうだ」
「 ウム、ムム ! (*・ω・*) ツェ、ル、イイコ!」
ナデナデ... ナデナデ...
「 ... ... ... 」
会話の途中に少年。そしてフェレンスの通訳。
背中を擦ってくれている小さな手。
何だか擽ったい。
カーツェルは再び黙った。
少年の与えてくれる和みが、酔いを紛らわせてくれているので。
いっそこのままフェレンスの作業が済むまでの間、もう一眠りしておこうかと思う。
いつまでもこんな情けない姿を晒しておくわけにはいかない。
顔向けすら出来ずにいる時点で恥。
せめて体調の悪さを顔に出さずに済むようになるまでは ... そう考えたのだ。
彼の背中にはクソ意地が滲み出ているかのよう。
目を向け、フェレンスは微笑む。
手元に残る部品は、一つだけ。
組み込みが完了すると、カーツェルの傍に居た名も無き少年を呼ぶ。
「さて、設置は済ませた。
これから、お前の血に秘められた魔力の判定を行う。
こちらへ来て、静かに席に着きなさい」
自分のことだと理解して振り向いた少年は、瞳を キラキラ と輝かせフェレンスの元へ。
素足を ペタペタ と鳴らして駆けつける。
膝元に来るのを見ながら、席はあちらだと手を差し向けるフェレンスは、
少しだけ困ったような顔をしていた。
ハッ として直ぐ様に引き返す少年は、
まず椅子の手前に片膝を乗せ、攀じ登るようにしながら向きを変えて ペタリ と座る。
そうして顔を上げた。
温もりを感じるランタンの灯りを滲ませ。
丸々と見開かれる瞳は、まるで月ノ鏡。
その中に映し出された彼の魔導師は、膝の上に置いた制御盤に手を翳し、速やかに集中する。
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